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Brothers Can't See Me — Quasimoto 和訳・スラング解説

アーティスト
Quasimoto
リリース年
2013
プロデューサー
Madlib
収録アルバム
Yessir Whatever
エリア
LA
BPM
0

この記事の見どころ

  1. 01 MadlibがLord Quasとして声をピッチアップ——バリトンボイスへのコンプレックスが生んだ発明
  2. 02 「Astro Black」「Digga」——アンダーグラウンドHHの隠語が随所に散りばめられた歌詞
  3. 03 12年間のアーカイブから発掘された楽曲——Quasimotoの音楽的DNAが凝縮されたトラック

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解説

■この曲の意味(要約)

2013年リリースの『Yessir Whatever』収録曲。Quasimotoはカリフォルニア州オックスナード出身のプロデューサー・Madlib(Otis Jackson Jr.)が生み出したオルター・エゴで、自身の深いバリトンボイスをピッチアップして作った甲高い「Lord Quas」の声で知られる。この曲ではMadlib本人(Intro)とLord Quas(Verse 1)、さらにMadlibとしてのVerse 2が交差し、「俺のスタイルには誰も追いつけない」という自己顕示とメインストリームHHへの批判を展開する。

■概要

Stones Throw Recordsを拠点とするMadlibが、約12年間にわたって録り溜めてきたアーカイブから発掘した楽曲。制作年代は1990年代後半と推定される(歌詞中に「in '97」という言及がある)が、2013年6月18日リリースの『Yessir Whatever』で初めて正式発表された。Quasimotoというキャラクターは黄色い管状の鼻を持つ地球外生命体のような見た目で設定されており、Madlibのメインストリームへの不参加宣言とも言えるアーティスティックな武器である。

■導入(制作背景)

Madlibは自身の声を「ラップするには暗すぎる・低すぎる」と嫌悪し、機材の再生速度を落としてラップを録音し、通常速度に戻すことでヘリウムガスを吸ったような甲高い声「Lord Quas」を生み出した。この手法はChipmunksのような笑いを狙ったものではなく、匿名性とキャラクター性を纏うことでMadlib自身が商業主義の外側に立ち続けるための戦略でもあった。「Brothers Can't See Me」(俺に追いつける兄弟はいない)というタイトルは、そのオルター・エゴが吐く最大のボースティングである。

Intro — Madlib

★ Madlib本人の声による侵攻宣言

Brothers can't see me
Brother Madlib invasion
Check it out
Brothers can't see me

俺に追いつける奴はいない
Madlib兄弟による侵攻だ
聞いてくれ
俺に追いつける奴はいない

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「Brothers can't see me(ブラザーたちは俺を見えない)」はヒップホップにおける定番のボースティング表現で「誰も俺には追いつけない・俺のレベルは見えていない」という意味。Introでは珍しくMadlib本人の地声でこのフレーズが語られ、その後Lord Quasの甲高い声のVerse 1に続く構造がシュルレアルな二重人格感を生む。「invasion(侵攻)」は商業ヒップホップシーンへのアンダーグラウンドからの奇襲を意味する。

Verse 1 — Lord Quas (Quasimoto)

★ 電波ジャック——アンダーグラウンドからの放送占拠

(Yo, Quasimoto taking over these airwaves
Flip the bow, never hitting with fair play)

(よお、QuasimotoがこのエアウェーブをTakeoverする
Bowをひっくり返す——フェアプレーで攻めることは決してない)

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「airwaves(エアウェーブ)」はラジオ・テレビの電波——メインストリームのメディアを乗っ取るという宣言。括弧()は歌詞上でLord Quasの声を示す記号として機能しており、Madlib地声との使い分けが明確。「flip the bow(弓をひっくり返す)」は予測不能な逆転攻撃の比喩。「fair play(フェアプレー)」で戦わないというのは、ルール外のアンダーグラウンドな戦術宣言。

★ 退屈なメインストリームテープへの不満

My style hit you all in your auditory
Now adays when I buy a tape, yo that s**t be boring me
I be paying good money, to hear some whack s**t
Take it back to the warehouse and tracked it

俺のスタイルはお前の聴覚を直撃する
最近テープを買うと、あの糞は俺を退屈させる
まともな金を払って、クソみたいな音楽を聴かされている
倉庫に持って帰って追跡した

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「auditory(聴覚)」——難しい単語をあえて使うLord Quasのスタイル。「tape(テープ)」は1990年代の文脈——カセットテープが主流だった時代に録音された楽曲であることが滲み出る。「whack s**t(クソみたいなもの)」はレベルの低い音楽のスラング。メインストリームHHへの不満をはっきり打ち出す。

We be moving on you, we up on the nightly
Stepping over this way, you just might find fate

俺たちはお前に迫ってる、毎晩アップしてる
こっちの方に踏み込んでくれば、運命を見つけるかもしれないぞ

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「nightly(毎晩)」——Madlibの音楽制作への没入は夜通しのセッションが特徴。「find fate(運命を見つける)」は相手がQuasimotoの領域に踏み込めば何かが待っているという警告であり誘惑でもある曖昧な表現。

★ 「Astro Black」——Sun Raへのリスペクト

We on it like a witch hunt, I recommend Astro black
When you're talk about trying stitch stunts

俺たちは魔女狩りのように追い詰める——Astro Blackを勧めるぞ
スタント(見せかけの技)を縫い合わせようとするなら

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「witch hunt(魔女狩り)」は執拗な追い詰め方の比喩。「Astro Black(アストロ・ブラック)」はSun Ra & His Arkestra(宇宙的フリージャズの先駆者)の1973年アルバムのタイトル——Madlibが深く影響を受けたジャズの参照。アウトキャスト的な精神とブラック意識の象徴として「Astro Black」を提示する。「stitch stunts(スタントを縫い合わせる)」はパッチワークのような偽物のスキルへの皮肉。

★ 「Digga of the crates」——レコード掘り師の代名詞

Told to motivate the Digga of the crates
Invest ya loot, Digga be heard, every state molested

クレートのDigga(掘り師)を奮い立たせるよう言われた
金を投資しろ、Diggaは聞こえている、すべての州が侵される

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「Digga(ディガ)」は「crate digger(クレートディガー)」の省略——中古レコード店のクレートを掘り起こしてサンプル素材を発掘するビートメイカーを指す。Madlib自身がその代表格。「invest ya loot(資金を投資しろ)」はレコードに金をつぎ込むことへの誇り。「every state molested(全州が侵される)」はMadlibの影響力が全米に広がるという誇示。

(Why you trying to cross over black?)
I be getting high, keeping it fat

(なぜメインストリームに移ろうとするんだ?)
俺はハイになりながら、ファットに保ち続けてる

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「cross over(クロスオーバー)」はアンダーグラウンドからメインストリームへの転向を意味するヒップホップ用語。「black(ブラック)」は仲間・兄弟への呼びかけ。商業的成功のために自分のスタイルを売り渡すことへの批判。「keeping it fat(ファットに保つ)」は「クオリティを落とさず充実したものを作り続ける」——1990年代〜2000年代HHにおいて「fat」は「最高・充実した」の意味のスラング。

Hook

Brothers can't see me
Check it out

俺に追いつける奴はいない
聞いてくれ

Verse 2 — Madlib

★ 「the bad kid」——Madlibの自己規定

Madlib the bad kid, I'm the one that'll hit you with the total bliss
Whether extra crisp, or mad dirty poppin' hiss

Madlib、悪ガキだ——完全な至福でお前を打ちのめす奴が俺だ
超クリアでも、狂ったほどダーティでブチっとしたヒスでも

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「bad kid(バッドキッド)」はルールを破る反抗的な子供——Madlibのアンダーグラウンド精神の自己規定。「total bliss(完全な至福)」は聴衆を圧倒するサウンドの描写。「extra crisp(超クリア)」と「mad dirty poppin' hiss(マッドダーティなブチ音)」の対比——高音質も低音質のヴァイナルノイズも、どちらでも俺のビートは機能するという自信。「hiss(ヒス)」はアナログレコードの針音——Madlibがヴァイナルへの愛を誇る表現。

★ ビートコンダクター——音楽の指揮者としての自己定義

My s**t sound better than yours, I got the force
Why you going off course like you're given them drawers
Yo its the beat conductor, ya I went on tour
The only thing different is that you see a lot more

俺の音は お前のより上だ、俺には力がある
なぜコースを外れるんだ——まるでパンツを渡してるみたいに
よお、ビートコンダクター(指揮者)だ——そう、ツアーにも行った
唯一の違いは、お前がもっと多くを見ることだ

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「the force(ザ・フォース)」はスター・ウォーズのフォース——超自然的な力と才能の二重の意味。「going off course(コースを外れる)」はスタイルの一貫性を失うこと。「given them drawers(パンツを渡す)」は売春的な比喩——スタイルや尊厳を売り渡す行為。「beat conductor(ビートコンダクター)」はMadlibのアーティスト名の一つでもある——オーケストラの指揮者のようにビートを操ることを意味する。

n***as frontin', b***hes stuntin'
(So Lord Quas keep it onto something, even if it's nothing)
(Yo why's that) Cuz most ya'll n***as is about bluffin'

ニガたちはフロンティン(見せかけ)、女たちはスタンティン(見せびらかし)
(だからLord Quasはたとえ何もなくても、何かを向けていろ)
(よお、なんで?)なぜなら、お前らのほとんどはブラフに過ぎないから

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「frontin'(フロンティン)」は「見せかけること・本当はないのに持っているふりをすること」——ヒップホップの根本的なアンチテーゼ。「stuntin'(スタンティン)」は富や地位を見せびらかすこと。Lord Quasがカッコ内で登場しMadlibの地声に応答する対話構造がMadlibの二重人格的な創作スタイルを体現する。「bluffin'(ブラッフィン)」はポーカー用語——虚勢を張ること。

★ 「A-Stac」と「97年の欠如」——シーンへの診断

While we just trying to keep it on A-Stac(?)
Because the static what ya huffin'
Word to ASAP, ya'll need to bring it back
Cause in '97 a lot of n***as lack

俺たちはただA-Stacに保とうとしているだけ
なぜならスタティック(雑音)がお前らが吸ってるものだから
ASAPに言っておく——お前らはそれを取り戻す必要がある
なぜなら'97(1997年)には多くのニガが欠けていたから

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「A-Stac」はMadlibのクルーやローカルな隠語と思われる(明確な定義は不明)。「static(スタティック)」はノイズ・雑音——質の低いものを吸収していること。「Word to ASAP(ASAPに誓う)」は「これは本当のこと」という誓いの表現(ASAP Rockyとは別)。「in '97 a lot of n***as lack(97年には多くが欠けていた)」は1990年代後半のシーンへの批評——本物のスキルを持つラッパーが少なかったという診断。Madlibにとって1997年頃が最も重要な時代だった。

■ キーワード・スラング一覧

「俺のレベルには誰も追いつけない」「俺が見えていない」という意味のボースティング表現。ヒップホップにおける自己顕示の定番フレーズ。 ラジオ・テレビの電波・放送波。「エアウェーブをテイクオーバーする」はメディアを乗っ取るというパワーの比喩。 中古レコード店のクレート(木箱)を掘って珍しいレコードを発掘するビートメイカー・コレクター。Madlibはその最高峰として知られる。 本当は持っていないのに持っているふりをすること・虚勢を張ること。ヒップホップ文化において最も批判される行為の一つ。 質が低い・カッコ悪い・レベルが低いの意味。「whack s**t」は「クソみたいな音楽」。ゴールデンエイジから使われる評価語。 Sun Ra & His Arkestraの1973年のアルバム。宇宙・実験性・ブラック意識を融合したフリージャズの傑作。Madlibが敬愛するアーティストの一つ。 ビートの指揮者。Madlibの別名・称号の一つ。オーケストラの指揮者のように複数の音楽的要素を制御するプロデューサーとしての自己定義。 本来は電気的なノイズ・雑音。転じて「問題・揉め事・低品質なもの」のスラング。「static what ya huffin'(お前が吸っているのは雑音)」は質の低い音楽を消費していることへの皮肉。

■ 文化的背景

Quasimotoというオルター・エゴの意義:ヒップホップは自己顕示とリアルネスを重んじる文化だが、MadlibはQuasimotoという架空のキャラクターの背後に隠れることで逆説的な「本物性」を獲得した。商業的な自己PRを拒否し、サンプリング芸術と音楽的実験のみを追求する姿勢は、J Dillaや他のアンダーグラウンドプロデューサーたちと並んで、2000年代以降のビートミュージックシーン全体に影響を与えた。

Stones Throw Recordsとオックスナードの地下室:MadlibはカリフォルニアのLAから少し北に位置するオックスナード出身。LAのメインストリームGファンクとは異なる音楽的環境で育ち、ジャズ・ソウル・ファンクのレコードを大量に蒐集した。Stones Throw Recordsは彼にとって自由の場であり、Quasimotoプロジェクトはレーベル最大のカルト的存在となった。

ピッチアップという技法の革命性:Madlib以前にもピッチ変換は使われていたが、それを「声への不満」から生まれた创作的解決策として一貫した世界観のキャラクターに昇華したのはMadlibの独創だった。Lord Quasの声はChipmunksのようなコメディとも、DeAmbrosio以降のエレクトロニックミュージックとも異なる、純粋にヒップホップ的なアナログ手法による音響実験になっていると思います。

■ レガシーと影響

ビートメイカーへの影響:Quasimotoの音楽はKendrick LamarがMadlibのビートを「最も影響を受けた」と発言するなど、次世代への影響は甚大。特にサンプリング素材の選択眼と「ダーティだが芸術的なグルーヴ」の追求は、Flying LotusやThundercatなどLAビートシーン全体の原点とも言える。

日本のシーンへの浸透:日本ではMadlibのプロデュース作(MadvillainのMF DOOMとのコラボ『Madvillainy』が特に有名)とともにQuasimotoも広く知られる。「crate digging(クレートディギング)」の文化とともに、東京・大阪のレコードショップでStones Throw盤がコレクターの間で高値で取引される。「Brothers Can't See Me」は特にMadlib入門曲として紹介されることが多い。

『Yessir Whatever』(2013年)の意義:発掘・再編集されたアーカイブ音源を収録した本作は、Quasimotoの「消えない」精神を示した。1990年代後半に録音されながら2013年に日の目を見た楽曲群は、時代を超えたMadlibの音楽的一貫性を証明している。

アーティストについて

Quasimoto

Oxnard, California · 1999–

Madlib(本名Otis Jackson Jr.)がカリフォルニア州オックスナードで生み出したオルター・エゴ・プロジェクト。自身の深いバリトンボイスをピッチアップして作った甲高い「Lord Quas」の声が特徴。Stones Throw Recordsから2000年に『The Unseen』でデビューし、世界中のビートメイカーとアンダーグラウンドHHファンに絶大な影響を与えた。商業主義を拒否し、膨大なレコードコレクションに基づくサンプリング芸術の極北を追求する姿勢はJ Dillaと並ぶビートシーンの礎となった。

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