Super Brooklyn 和訳・意味・スラング解説 | Cocoa Brovaz

アーティスト
Cocoa Brovaz
プロデューサー
DJ Rob
収録アルバム
Super Brooklyn (Promo Single)
エリア
NY
BPM
サンプル元
Nintendo "Super Mario Bros." BGM (1985)

この記事の見どころ

  1. 01 任天堂「スーパーマリオブラザーズ」BGMを無断サンプリング——正規リリース不可能なゲリラトラック
  2. 02 レーベルを失ったCocoa Brovazがホワイトレーベルでストリートに叩きつけた起死回生の一撃
  3. 03 このストリートバズがRawkus Recordsとの契約に繋がった痛快な逆転劇

■この曲の意味(要約)

1999年、Priority Recordsとの契約を打ち切られたCocoa Brovaz(旧Smif-N-Wessun)がストリートに向けて放った起死回生のゲリラトラック。任天堂『スーパーマリオブラザーズ』のBGMを大胆に無断サンプリングし、ブルックリンの生存哲学をブルータルに描写。正規リリースが不可能な「禁断の音源」として、ホワイトレーベルのアナログ盤がNYのレコード店に秘密裏に出回り、ミックステープDJたちを通じてアンダーグラウンドで爆発的なバイラルヒットを記録した。

■概要

1999年リリース(非公式プロモーション12インチシングル)。DJ Robプロデュース。任天堂の著作権問題から正規流通不可能なままアンダーグラウンドで爆発し、Rawkus Recordsとの新契約を呼び込んだ歴史的なゲリラトラック。

■導入(時代背景)

Smith & Wesson社の商標権侵害訴訟でSmif-N-WessunからCocoa Brovazへ改名を強いられた彼らが、今度は任天堂のIPを「逆用」してストリートの反乱を起こした。Puff Daddy率いるシャイニー・スーツ路線が席巻していた1990年代末、本楽曲はDIY精神と反骨心でアンダーグラウンドの頂点に立った。

Intro

(『スーパーマリオブラザーズ』の地下BGMが不穏に鳴り響く)

(任天堂の電子音がブルックリンのストリートに変貌する)

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誰もが知る牧歌的なゲーム音楽が、DJ Robのプロダクションで煙たく不穏なブーンバップへと変貌する瞬間。「スーパーマリオ」というポップカルチャーのアイコンと、ブラウンズヴィルの荒廃したゲットーの現実が衝突する——これが本楽曲の核心である。

Verse 1 · Steele & Tek

S-T what I represent, N-Y
Hold it down for my peeps in the 'ville in Bed-Stuy(ベッドフォード・スタイベサント)地区の別称。「ヤるかヤられるか」の生存哲学を表す。The Notorious B.I.G.も多用した90年代NYの定番フレーズ

S-T(SteeleとTek)、それが俺たちのレペゼン、N-Y(ニューヨーク)だ
Do or Die(ヤるかヤられるか)の街、Brownsvilleのダチのためにここを死守するぜ

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「S-T」はSteeleとTekの頭文字——Boot Camp Clikのコアデュオとしての自己紹介。「'ville」はBrownsville(ブラウンズヴィル)の略称で、ニューヨーク史上最も犯罪率が高かった地域のひとつ。

For the record let it be known — chrome for sale
And any one of these niggas could blow your grill

ハッキリ記録に残しておけ、俺たちはクローム(銃)をさばいてるってな
ここにいる野郎どもの誰だって、お前の顔面を吹き飛ばせるんだ

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「chrome」は銀色に光るピストルの隠語。「blow your grill」の「grill」は顔面を指すスラング——歯(グリル)ごと吹き飛ばすというブルータルな脅しの表現。

Show your skill — you want war? Hold your steel
You want more? Unload techs, you all could feel
Raw deal, you all peel, run for the hills
Run for your shields, the battlefield's blastin at will

お前の腕前を見せてみろ、戦争がしたいのか? なら鉄砲をしっかり握りな
まだ足りないか? TEC-9(サブマシンガン)をぶっ放すぜ、お前ら全員その痛みを味わう
理不尽な結末さ、お前ら全員皮を剥がされる前に丘の向こうへ逃げ出しな
盾の裏に隠れろ、この戦場じゃ俺たちが手当たり次第にぶっ放してるんだからよ

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「techs」はTEC-9サブマシンガンの略。「raw deal」は「理不尽な扱い・最悪の結末」を意味するイディオム。四行連続で戦争の比喩を畳み掛け、聴者を圧倒するフロウの構造。

Verse 2

Smoke Dawg you know my name
I'll Be the same til the day that I'm laid down

Smoke Dawg、俺の名前は知ってるだろ
俺が棺桶にブチ込まれるその日まで、俺の生き様は変わらねえよ

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「laid down」は「棺桶に寝かされる=死ぬ」の意。ストリートで命を懸けて生きることへの覚悟を、シンプルな一行で表現する。

Niggas push me to the point's gotta spray rounds
Takin shit like for a game, actin like clowns — always playin

クソ野郎どもが俺を限界まで追い詰めるから、弾丸をバラ撒くハメになるんだ
ストリートのシノギをゲームみたいに軽く考えやがって、ピエロみたいにいつもふざけてる奴らめ

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「spray rounds」は銃弾を乱射すること。ストリートの緊張を軽視する「クラウン(道化)」への怒りと、暴力の応報性を描写する。

You ain't bustin off, just shootin the breeze
Cause you scared of the repercussion after we squeeze

お前らは引き金を引いてるんじゃない、ただ無駄口を叩いてる(shootin the breeze)だけだ
だって、俺たちが引き金を絞った後の「報復」が怖くてチビってるんだろ

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「shootin the breeze」は「世間話・駄弁り」を意味するイディオムと「銃を撃つ」のダブルミーニング。「squeeze」は引き金を絞る動作——お前らの口先だけの強がりを見抜いている。

You ain't been through what I did just to get where I'm at
Streets where I rep and B-K where I be at

俺が今の地位に這い上がるまでにくぐり抜けてきた地獄を、お前らは経験しちゃいねえ
俺が背負ってるこのストリート、俺が立っているこのB-K(ブルックリン)の現実をな

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「B-K」はBrooklyn(ブルックリン)の略称。自身のサバイバル経験を引き合いに出し、批判者の資格のなさを突く——ヒップホップにおける「authenticity(本物性)」の主張。

Chorus

★ 本楽曲の核心

Cause Brook-lyn where we live-at
Jugg-lin the good-crack (roo ROO)
Hand-lin a big- 銃・ピストルのスラング。19世紀のGatling gun(ガトリング砲)に由来する1990年代ギャングスタラップ最頻出の隠語
My-army got my 「Back(背後・バックアップ)」の変形スラング。単語に「iz」を挿入するイズル暗号語法の一種。「俺の軍団がバックについている」の意

だってよ、ブルックリン(Brook-lyn)、ここが俺たちの生きる場所だからだ
上等なクラック(麻薬)をさばきながらよ(ルゥ! ルゥ!)
デカいハジキ(銃)を片手に握りしめて
俺の背後(bi-zack)には、無敵のアーミー(仲間たち)がついてるんだ

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「roo ROO」はパトワ語的な感嘆・呼応の声——カリブ海移民ルーツを持つBrooklynのストリート文化を反映する。「juggle」はドラッグの小売り取引を指すスラング。このフックは本楽曲のタイトル「Super Brooklyn」の実体——生きるためにあらゆる危険を引き受けるブルックリンの生存哲学——を4行に凝縮している。

Verse 3 · Steele

I'mma Brooklyn survivor, these streets is hotter than lava
Top of saliva, burn you like fire

俺はブルックリンのサバイバー、このストリートは溶岩よりも熱く煮え滾ってるぜ
唾を吐きかけるだけで、お前を炎みたいに焼き尽くしてやる

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「hotter than lava」——ブルックリンのストリートの緊張と危険性を溶岩の熱さで表現。Steeleの流れるようなフロウで畳み掛けるオープニングライン。

★ スラング凝縮ライン

I'm a B.K.D.C.S.T. smokin スイスの食品会社「Nestle」のチョコレート製品に由来。ストリートでは上質な茶色いハシシやチョコ・タイと呼ばれる品種のマリファナを指す暗号 with a chick in a 高級車「Lexus GS 300」のこと。「Tree」はカリブ海系/NY訛りで数字の「3(Three)」を指す。1990年代後半ヒップホップ界最大のステータスシンボル

俺はB.K.(ブルックリン)、D.C.(Boot Camp Clik)、S.T.(SteeleとTek)の看板を背負い、極上のNestle(チョコタイ)を吸いながら、G.S. Tree(Lexus GS 300)の助手席にイイ女を乗せてるんだ

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一行に頭文字(B.K.D.C.S.T.)・薬物隠語(Nestle)・車の隠語(G.S. Tree)を詰め込んだ高密度のラインで、Steeleの所属・スタイル・地位をすべて表現する。暗号的なスラングの層を剥がすほど意味が現れる構造。

Why Missy so sexy but she's a bitch
Chill shorty, who can't play me
I'm a general baby, what you crazy
ブルックリン、特にBrownsville周辺の愛称。銃を撃つ音(Buck)や強盗・暴力が頻発する地域性から命名。Smif-N-Wessunの代表曲「Bucktown」(1994年)でも有名 where niggas be actin so shady

なんであのネエちゃんはあんなにセクシーなのに、クソビッチなんだろうな
落ち着けよオジョーサン、誰も俺を騙して遊ぶことなんてできねえよ
俺は将軍(General)だぜベイビー、お前イカれてんのか?
ここBucktown(Brownsville)じゃ、野郎どもはみんな腹に一物抱えたヤバい動きをしてるんだ

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「shady」は「怪しい・裏がある・信用できない」の意。「general(将軍)」はBoot Camp Clikのミリタリースタイルの美学を反映した自称。Bucktownという地名で締めることで、ブルックリンという「戦場」のリアリティに着地する。

Verse 4 · Tek

Welcome to 犯罪者・悪党を意味する「Crook」とBrooklynを掛け合わせた造語。スパイク・リー監督の1994年の同名映画でも有名。ストリートの厳しい現実を示す言葉 , where we send shots to ya fitted
Rock two tone doo rags and 高級車を指すスラング。馬車を操る鞭(Whip)→車のステアリングホイール(ハンドル)→車そのもの、という語源の変遷 and kid it

Crooklyn(犯罪都市ブルックリン)へようこそ、ここではお前の被ってるFitted(ニューエラ)目掛けて銃弾をブチ込むぜ
ツートンのドゥーラグを巻き、高級車(whips)を乗り回して、子供みたいにハシャぐんだ

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「fitted」はNew Era社の野球帽。ブルックリンへの「ようこそ」という逆説的な歓迎で、危険な都市の現実を突きつける。「two tone doo rags(ツートンのドゥーラグ)」はBoot Camp Clikのトレードマークスタイル。

I love to shit it, fuck you if you ain't wit it
Out here I know the District Attorney(地方検事)。ニューヨークの司法制度で刑事事件の起訴を行う検察官。ストリートでは優秀な弁護士を使ってD.A.の起訴を退ける(Acquitted=無罪放免)権力の誇示に使われる get cases aquited

俺はデカい態度をとる(shit it)のが好きなんだ、ついて来れねえ奴はクソ食らえだ
この街じゃ、D.A.(地方検事)を使えばどんな事件も無罪放免(aquited)にできるって知ってるからな

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「D.A.(District Attorney)」を使って無罪を勝ち取るというラインは、法制度の腐敗と金権力への暗示。「acquitted(無罪放免)」——これはO.J.シンプソン事件(1995年)が生んだ社会的語彙でもある。

So why would I up and leave, behind all my team
All that cream, go to where new and start out clean
My sixteen, these niggas cramp with hoes
Been all around the word, still Brooklyn's own

だからよ、なんで俺が自分のチームを置き去りにして、この街を離れなきゃならねえんだ?
あんなに稼いだクリーム(金)を捨てて、見知らぬ土地でクリーンな再出発なんて馬鹿げてるだろ
俺が16小節(sixteen)キックすれば、こいつらはビッチどもと一緒に狂喜する
世界中(word = worldの訛り)をツアーして回ったが、俺は今でも変わらずブルックリンの所有物さ

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「cream」は現金・利益のスラング(Wu-Tang ClanのC.R.E.A.M.と同語源)。「sixteen」はラップの1ヴァース=16バー(小節)のこと。世界中を旅してもブルックリンへの帰属意識は変わらない——ロイヤリティの哲学。

Bridge

What we live is what you read about
And any time of the day we bring the heaters out

俺たちが毎日生きているこの現実は、お前らが雑誌や新聞で読んでいる犯罪記事そのものさ
そして昼夜問わず、俺たちはヒーター(銃)をいつでも抜けるように持ち歩いてる

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「heaters」は銃器の隠語。「お前らが記事で読むもの」=「俺たちが生きている現実」という対比——メディアと当事者の視点の乖離を突く。

My nigga stacked his dough, then he bought the Beemer out
Now you wonderin what Cocoa B's about?
(Cocoa BEEEEEZ, Cocoa BEEEEEEEEZ)

俺のダチは必死に札束(dough)を積み上げて、ついにピカピカのBeemer(BMW)を買いやがった
これで分かっただろ、Cocoa B's(ココア・ブラヴァズ)がどんな連中かってことがよ?
(ココア・ビーーーーーズ! ококоа・ビーーーーーズ!)

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「Beemer」はBMW(バイエルン・モーター・ウェルケ)のスラング。1990年代のストリートにおける成功の象徴。「Cocoa B's(Cocoa Brovaz)」のアイデンティティを改めて打ち出すサビ前の宣言。

Verse 5 · Steele

Cocoa B-R-double-O K-L-Y-N with a couple HOEES
Tired of coppin weed bags, had enough of those
Invest in a few pounds or a couple O's

ココア・ブルックリン(B-R-O-O-K-L-Y-N)、俺の横には何人かのネエちゃん(HOES)が侍ってるぜ
ちまちまと小袋のウィード(大麻)を買うのにはもうウンザリだ、そんな底辺の生活はもう十分さ
数ポンド、あるいは数オンス(O's)単位の巨大な塊に投資してディールを回すんだ

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「O's」はオンス単位の大量取引を指す——小売り(エンドユーザー)から卸売り(ディーラー)へのステップアップを示す。ストリートにおける「ビジネス成長」の論理。

My niggas hustle most aggressive and keep the toast
On point for the B's and whenever beef approach
If you want me you can find me in the reefer smoke
Chrome close, anyone compete — meet your ghost

俺のダチどもは誰よりもアグレッシブにハッスルして、常にトースト(銃)を肌身離さず持っている
B's(ブルックリン)のために常に気を張って、いつビーフ(抗争)が近づいてきてもいいようにな
俺に用があるなら、濃いリーファー(大麻)の煙の中に探しに来いよ
クローム(銃)はすぐ手の届くところにある、俺たちに張り合おうとする奴は、すぐに自分の幽霊と対面することになるぜ

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「toast(トースト)」は銃のスラング(形状の類似から)。「meet your ghost(幽霊に会う)」=死ぬこと。「reefer smoke(大麻の煙)」——警戒しながらも飄々とリラックスしているという二面性を表現する。

Verse 6 · Tek

All my heights and 大掛かりな犯罪・強盗・詐欺を指すスラング。映画ジャンル「ケイパーもの(泥棒映画)」と同語源。ストリートでは命がけの違法な企みを指す , Smoky Lah be one of the greatest
Can't tell you all the things my niggas do for the papers

俺がこなしてきた数々のデカいヤマ(capers)の中でも、Smoky Lah(最高の大麻、あるいは仲間の異名)は間違いなく最上級の存在さ
俺のダチどもがペーパー(札束)を手に入れるためにどんなヤバい橋を渡っているか、お前らには全部教えられねえよ

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「papers(ペーパー)」は現金・マネーのスラング。具体的な犯罪行為を明かさないことで、想像力を刺激しつつ法的リスクを回避する——1990年代ギャングスタラップの定型技法。

Why our Roc's look like Raiders and got models for ladies
Come through in fresh wears, always drivin Mercedes

なぜ俺たちのRoc's(ロカウェアのジャケット、あるいはダイヤモンドの輝き)がレイダースみたいに銀と黒に光り、モデル級の女たちを侍らせているのか、考えてもみろ
常にフレッシュな服に身を包んで街を流し、いつだってメルセデスを乗り回してるんだ

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「Raiders(レイダース)」はNFLのオークランド・レイダースで、銀と黒のチームカラーがギャングスタカルチャーのアイコン。「Roc's」はRocawear(JAY-Zのブランド)またはダイヤモンドを指す。高級ブランドとスポーツチームの組み合わせによるステータス表示。

★ 日本との接点

Summer days and mountain bikes, wet Timbs on my feet
Move with the heat, Cocoa B's influence your speech

夏の日にマウンテンバイクで駆け抜け、足元には真新しいTimbs(ティンバーランドのブーツ)を履きこなす
ヒート(銃/熱気)と共に動き回る、俺たちCocoa B'sの存在がお前らの喋り方(スラング)にまで影響を与えてるんだぜ

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「wet Timbs」のTimberland(ティンバーランド)ブーツはBoot Camp Clikのトレードマーク——日本のB-Boyファッションにも多大な影響を与えた。「influence your speech(お前らのスピーチに影響を与える)」は本楽曲のスラングが日本を含む世界中のヒップホップリスナーに浸透したことを予言するライン。

Four in a week, catch me in the park gettin scent
元々はメキシコなどスペイン語圏の連邦警察を指す言葉。ニューヨークのストリートではFBI・法執行機関全般の隠語として定着 stay all over the bar, behind the neck, out in

1週間に4回は、公園で匂い(scent=大麻の煙、あるいは女の匂い)を嗅ぎつけてる俺を見つけられるはずさ
Federales(サツの連中)はバーの周りにも、俺たちの首の後ろにも、そこら中に張り付いてやがるがな

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「Federales(フェデラーレス)」というスペイン語の警察用語——カリブ海・ラテン系移民が多いブルックリンの多文化的なストリートスラングの反映。常に監視下にある状況をさらりと描写する。

文化的背景

Boot Camp Clik & Smif-N-Wessun

ブルックリン最強のコレクティヴ

Smif-N-Wessun(Tek & Steele)は1993年のBlack Moon客演でデビュー。1995年の1stアルバム『Dah Shinin'』は全米30万枚超のセールスを記録し、Da Beatminerzによる重厚なサウンドとパトワ語を交えた独特フロウで90年代中期ハードコアヒップホップの金字塔となった。しかしSmith & Wesson社からの商標権侵害訴訟(Cease and Desist)を受けてCocoa Brovazへ改名を強いられ、1998年の2nd『The Rude Awakening』リリース後にPriority Recordsとの契約も打ち切られた。

日本との繋がり

ブルックリンと日本を繋ぐ二重の絆

本楽曲のサンプル元である任天堂『スーパーマリオブラザーズ』(1985年)は、近藤浩治が作曲した8ビットメロディ。低所得者層のコミュニティではNESが「安価なベビーシッター」として機能し、マリオの電子音はブルックリンのギャングスタたちの原風景の一部だった。さらにCocoa BrovazとBoot Camp Clikは、日本でも熱狂的な支持を受け——DJ MUROの渋谷セレクトショップ「Savage!」でTimberlandやElements of Styleが日本のB-Boyに広まった経緯も含め、日米のストリートカルチャーを深く繋ぐ存在だった。

キーワード解説

楽曲を読み解く重要スラング・用語

Bucktown Brownsvilleの愛称。「Buck(銃声)」と地域の暴力性から命名。Smif-N-Wessunの代表曲と同名
Crooklyn CrookとBrooklynの造語。犯罪都市ブルックリンの別称。スパイク・リー監督の1994年映画と同名
Bi-zack Back(背後・バックアップ)のイズル暗号語法変形。「俺の軍団がバックについている」の意
G.S. Tree Lexus GS 300。「Tree」はカリブ系訛りで「3(Three)」。1990年代ヒップホップ最大のステータスカー
Federales スペイン語由来の法執行機関の隠語。多文化的なブルックリンのストリートで定着

制作の裏側

制作秘話 01

スーパーマリオ無断サンプリング——最初から「違法」な運命

DJ Robがプロデュースした本楽曲のビートは、任天堂『スーパーマリオブラザーズ』の地下BGM・地上BGM・ジャンプ音・ミス音を無断サンプリング。1991年のBiz Markie著作権訴訟判例以降、クリアランスなしのサンプリングは商業リリース不可能となっていた。任天堂のような知的財産管理に厳格な企業がギャングスタラップへの使用を許可するはずもなく、最初から正規リリース不可能な楽曲として生まれた。

制作秘話 02

ホワイトレーベル作戦——制約を武器にしたゲリラ戦術

Priority Recordsを失い背水の陣にあったCocoa BrovazとDuck Down RecordsのDru-Ha・Buckshotは、この法的制約を逆手にとった。楽曲を非公式12インチアナログ盤(ホワイトレーベル)としてプレスし、ニューヨーク中のアンダーグラウンドなレコード店にゲリラ配布。Funkmaster FlexやRon GらミックステープDJたちが争ってプレイしたことで、口コミで爆発的に拡散した。

制作秘話 03

Rawkus Recordsとの契約——禁断のトラックが開いた扉

ストリートでの圧倒的なバズが決定打となり、Mos Def・Talib Kweli・Company Flowらを擁し帝国を築きつつあったRawkus RecordsがCocoa Brovazのポテンシャルを高く評価し新契約を締結。サンプリングの法的制約を逆にストリートのプロップス(尊敬)とビジネスの推進力へと転換したこの逆転劇は、ヒップホップのDIY精神と反骨心の勝利を体現している。

評価とその後の影響

ゲーム音楽サンプリングの先駆

ビデオゲームとヒップホップの文化的衝突点

本楽曲は、ヒップホップにおけるゲーム音楽サンプリングをアンダーグラウンドレベルで決定的に大衆化させた先駆的な例として評価されている。後年、Lil Wayne・Drake・Kanye Westらがゲーム音楽を参照するフォーマットの礎を築いた。

  • Smith & Wesson → Cocoa Brovaz 銃器メーカーの訴訟で名前を奪われたラッパーが、今度は任天堂のIPを逆用して反乱——「制約を武器にする」というヒップホップの根本哲学の体現。
  • Boot Camp Clik Japan DJ MUROを軸に1990年代から日本のアンダーグラウンドで絶大な支持を獲得。TimberlandブーツとElements of Styleが東京のB-Boyファッションに波及した。
  • Rawkus Records era 本楽曲がきっかけで締結したRawkus契約は、アンダーグラウンドヒップホップの黄金期(1998〜2002年)を生きた重要な転機となった。

まとめ

  • 任天堂『スーパーマリオブラザーズ』を無断サンプリング——正規リリース不可能な「禁断のゲリラトラック」として1999年にホワイトレーベルでストリートに放たれた。
  • Priority Recordsを失ったCocoa Brovazがミックステープ文化を通じてNY全土にバズを起こし、Rawkus Recordsとの契約を勝ち取った痛快な逆転劇。
  • ビデオゲーム音楽とハードコアヒップホップを融合させた先駆的な例であり、日本の任天堂とブルックリンのゲットーが衝突する「文化的特異点」。
  • Bucktown・Crooklyn・bi-zack・G.S. Treeなど、ブルックリン固有のスラングと暗号が高密度に詰め込まれた90年代末NYの時代の証言。

アーティストについて

Cocoa Brovaz

Brownsville, Brooklyn, New York · 1993–

TekとSteeleからなるブルックリンのデュオ。もとはSmif-N-Wessunとして1995年に『Dah Shinin'』でデビューし全米30万枚超のセールスを記録したが、Smith & Wesson社の商標権侵害訴訟によりCocoa Brovazへ改名を余儀なくされた。1999年にPriority Recordsを失った後、任天堂『スーパーマリオブラザーズ』を無断サンプリングしたゲリラトラック「Super Brooklyn」でストリートを席巻し、Rawkus Recordsとの新契約を獲得。Boot Camp Clikの中核を担い、重厚なブーンバップとジャマイカのパトワ語的フロウで90年代東海岸ハードコアヒップホップの金字塔を打ち立てた。