この記事の見どころ
1999年、Priority Recordsとの契約を打ち切られたCocoa Brovaz(旧Smif-N-Wessun)がストリートに向けて放った起死回生のゲリラトラック。任天堂『スーパーマリオブラザーズ』のBGMを大胆に無断サンプリングし、ブルックリンの生存哲学をブルータルに描写。正規リリースが不可能な「禁断の音源」として、ホワイトレーベルのアナログ盤がNYのレコード店に秘密裏に出回り、ミックステープDJたちを通じてアンダーグラウンドで爆発的なバイラルヒットを記録した。
1999年リリース(非公式プロモーション12インチシングル)。DJ Robプロデュース。任天堂の著作権問題から正規流通不可能なままアンダーグラウンドで爆発し、Rawkus Recordsとの新契約を呼び込んだ歴史的なゲリラトラック。
Smith & Wesson社の商標権侵害訴訟でSmif-N-WessunからCocoa Brovazへ改名を強いられた彼らが、今度は任天堂のIPを「逆用」してストリートの反乱を起こした。Puff Daddy率いるシャイニー・スーツ路線が席巻していた1990年代末、本楽曲はDIY精神と反骨心でアンダーグラウンドの頂点に立った。
(『スーパーマリオブラザーズ』の地下BGMが不穏に鳴り響く)
(任天堂の電子音がブルックリンのストリートに変貌する)
S-T what I represent, N-Y
Hold it down for my peeps in the 'ville in Bed-Stuy(ベッドフォード・スタイベサント)地区の別称。「ヤるかヤられるか」の生存哲学を表す。The Notorious B.I.G.も多用した90年代NYの定番フレーズ
S-T(SteeleとTek)、それが俺たちのレペゼン、N-Y(ニューヨーク)だ
Do or Die(ヤるかヤられるか)の街、Brownsvilleのダチのためにここを死守するぜ
For the record let it be known — chrome for sale
And any one of these niggas could blow your grill
ハッキリ記録に残しておけ、俺たちはクローム(銃)をさばいてるってな
ここにいる野郎どもの誰だって、お前の顔面を吹き飛ばせるんだ
Show your skill — you want war? Hold your steel
You want more? Unload techs, you all could feel
Raw deal, you all peel, run for the hills
Run for your shields, the battlefield's blastin at will
お前の腕前を見せてみろ、戦争がしたいのか? なら鉄砲をしっかり握りな
まだ足りないか? TEC-9(サブマシンガン)をぶっ放すぜ、お前ら全員その痛みを味わう
理不尽な結末さ、お前ら全員皮を剥がされる前に丘の向こうへ逃げ出しな
盾の裏に隠れろ、この戦場じゃ俺たちが手当たり次第にぶっ放してるんだからよ
Smoke Dawg you know my name
I'll Be the same til the day that I'm laid down
Smoke Dawg、俺の名前は知ってるだろ
俺が棺桶にブチ込まれるその日まで、俺の生き様は変わらねえよ
Niggas push me to the point's gotta spray rounds
Takin shit like for a game, actin like clowns — always playin
クソ野郎どもが俺を限界まで追い詰めるから、弾丸をバラ撒くハメになるんだ
ストリートのシノギをゲームみたいに軽く考えやがって、ピエロみたいにいつもふざけてる奴らめ
You ain't bustin off, just shootin the breeze
Cause you scared of the repercussion after we squeeze
お前らは引き金を引いてるんじゃない、ただ無駄口を叩いてる(shootin the breeze)だけだ
だって、俺たちが引き金を絞った後の「報復」が怖くてチビってるんだろ
You ain't been through what I did just to get where I'm at
Streets where I rep and B-K where I be at
俺が今の地位に這い上がるまでにくぐり抜けてきた地獄を、お前らは経験しちゃいねえ
俺が背負ってるこのストリート、俺が立っているこのB-K(ブルックリン)の現実をな
★ 本楽曲の核心
Cause Brook-lyn where we live-at
Jugg-lin the good-crack (roo ROO)
Hand-lin a big- 銃・ピストルのスラング。19世紀のGatling gun(ガトリング砲)に由来する1990年代ギャングスタラップ最頻出の隠語
My-army got my 「Back(背後・バックアップ)」の変形スラング。単語に「iz」を挿入するイズル暗号語法の一種。「俺の軍団がバックについている」の意
だってよ、ブルックリン(Brook-lyn)、ここが俺たちの生きる場所だからだ
上等なクラック(麻薬)をさばきながらよ(ルゥ! ルゥ!)
デカいハジキ(銃)を片手に握りしめて
俺の背後(bi-zack)には、無敵のアーミー(仲間たち)がついてるんだ
I'mma Brooklyn survivor, these streets is hotter than lava
Top of saliva, burn you like fire
俺はブルックリンのサバイバー、このストリートは溶岩よりも熱く煮え滾ってるぜ
唾を吐きかけるだけで、お前を炎みたいに焼き尽くしてやる
★ スラング凝縮ライン
I'm a B.K.D.C.S.T. smokin スイスの食品会社「Nestle」のチョコレート製品に由来。ストリートでは上質な茶色いハシシやチョコ・タイと呼ばれる品種のマリファナを指す暗号 with a chick in a 高級車「Lexus GS 300」のこと。「Tree」はカリブ海系/NY訛りで数字の「3(Three)」を指す。1990年代後半ヒップホップ界最大のステータスシンボル
俺はB.K.(ブルックリン)、D.C.(Boot Camp Clik)、S.T.(SteeleとTek)の看板を背負い、極上のNestle(チョコタイ)を吸いながら、G.S. Tree(Lexus GS 300)の助手席にイイ女を乗せてるんだ
Why Missy so sexy but she's a bitch
Chill shorty, who can't play me
I'm a general baby, what you crazy
ブルックリン、特にBrownsville周辺の愛称。銃を撃つ音(Buck)や強盗・暴力が頻発する地域性から命名。Smif-N-Wessunの代表曲「Bucktown」(1994年)でも有名 where niggas be actin so shady
なんであのネエちゃんはあんなにセクシーなのに、クソビッチなんだろうな
落ち着けよオジョーサン、誰も俺を騙して遊ぶことなんてできねえよ
俺は将軍(General)だぜベイビー、お前イカれてんのか?
ここBucktown(Brownsville)じゃ、野郎どもはみんな腹に一物抱えたヤバい動きをしてるんだ
Welcome to 犯罪者・悪党を意味する「Crook」とBrooklynを掛け合わせた造語。スパイク・リー監督の1994年の同名映画でも有名。ストリートの厳しい現実を示す言葉 , where we send shots to ya fitted
Rock two tone doo rags and 高級車を指すスラング。馬車を操る鞭(Whip)→車のステアリングホイール(ハンドル)→車そのもの、という語源の変遷 and kid it
Crooklyn(犯罪都市ブルックリン)へようこそ、ここではお前の被ってるFitted(ニューエラ)目掛けて銃弾をブチ込むぜ
ツートンのドゥーラグを巻き、高級車(whips)を乗り回して、子供みたいにハシャぐんだ
I love to shit it, fuck you if you ain't wit it
Out here I know the District Attorney(地方検事)。ニューヨークの司法制度で刑事事件の起訴を行う検察官。ストリートでは優秀な弁護士を使ってD.A.の起訴を退ける(Acquitted=無罪放免)権力の誇示に使われる get cases aquited
俺はデカい態度をとる(shit it)のが好きなんだ、ついて来れねえ奴はクソ食らえだ
この街じゃ、D.A.(地方検事)を使えばどんな事件も無罪放免(aquited)にできるって知ってるからな
So why would I up and leave, behind all my team
All that cream, go to where new and start out clean
My sixteen, these niggas cramp with hoes
Been all around the word, still Brooklyn's own
だからよ、なんで俺が自分のチームを置き去りにして、この街を離れなきゃならねえんだ?
あんなに稼いだクリーム(金)を捨てて、見知らぬ土地でクリーンな再出発なんて馬鹿げてるだろ
俺が16小節(sixteen)キックすれば、こいつらはビッチどもと一緒に狂喜する
世界中(word = worldの訛り)をツアーして回ったが、俺は今でも変わらずブルックリンの所有物さ
What we live is what you read about
And any time of the day we bring the heaters out
俺たちが毎日生きているこの現実は、お前らが雑誌や新聞で読んでいる犯罪記事そのものさ
そして昼夜問わず、俺たちはヒーター(銃)をいつでも抜けるように持ち歩いてる
My nigga stacked his dough, then he bought the Beemer out
Now you wonderin what Cocoa B's about?
(Cocoa BEEEEEZ, Cocoa BEEEEEEEEZ)
俺のダチは必死に札束(dough)を積み上げて、ついにピカピカのBeemer(BMW)を買いやがった
これで分かっただろ、Cocoa B's(ココア・ブラヴァズ)がどんな連中かってことがよ?
(ココア・ビーーーーーズ! ококоа・ビーーーーーズ!)
Cocoa B-R-double-O K-L-Y-N with a couple HOEES
Tired of coppin weed bags, had enough of those
Invest in a few pounds or a couple O's
ココア・ブルックリン(B-R-O-O-K-L-Y-N)、俺の横には何人かのネエちゃん(HOES)が侍ってるぜ
ちまちまと小袋のウィード(大麻)を買うのにはもうウンザリだ、そんな底辺の生活はもう十分さ
数ポンド、あるいは数オンス(O's)単位の巨大な塊に投資してディールを回すんだ
My niggas hustle most aggressive and keep the toast
On point for the B's and whenever beef approach
If you want me you can find me in the reefer smoke
Chrome close, anyone compete — meet your ghost
俺のダチどもは誰よりもアグレッシブにハッスルして、常にトースト(銃)を肌身離さず持っている
B's(ブルックリン)のために常に気を張って、いつビーフ(抗争)が近づいてきてもいいようにな
俺に用があるなら、濃いリーファー(大麻)の煙の中に探しに来いよ
クローム(銃)はすぐ手の届くところにある、俺たちに張り合おうとする奴は、すぐに自分の幽霊と対面することになるぜ
All my heights and 大掛かりな犯罪・強盗・詐欺を指すスラング。映画ジャンル「ケイパーもの(泥棒映画)」と同語源。ストリートでは命がけの違法な企みを指す , Smoky Lah be one of the greatest
Can't tell you all the things my niggas do for the papers
俺がこなしてきた数々のデカいヤマ(capers)の中でも、Smoky Lah(最高の大麻、あるいは仲間の異名)は間違いなく最上級の存在さ
俺のダチどもがペーパー(札束)を手に入れるためにどんなヤバい橋を渡っているか、お前らには全部教えられねえよ
Why our Roc's look like Raiders and got models for ladies
Come through in fresh wears, always drivin Mercedes
なぜ俺たちのRoc's(ロカウェアのジャケット、あるいはダイヤモンドの輝き)がレイダースみたいに銀と黒に光り、モデル級の女たちを侍らせているのか、考えてもみろ
常にフレッシュな服に身を包んで街を流し、いつだってメルセデスを乗り回してるんだ
★ 日本との接点
Summer days and mountain bikes, wet Timbs on my feet
Move with the heat, Cocoa B's influence your speech
夏の日にマウンテンバイクで駆け抜け、足元には真新しいTimbs(ティンバーランドのブーツ)を履きこなす
ヒート(銃/熱気)と共に動き回る、俺たちCocoa B'sの存在がお前らの喋り方(スラング)にまで影響を与えてるんだぜ
Four in a week, catch me in the park gettin scent
元々はメキシコなどスペイン語圏の連邦警察を指す言葉。ニューヨークのストリートではFBI・法執行機関全般の隠語として定着 stay all over the bar, behind the neck, out in
1週間に4回は、公園で匂い(scent=大麻の煙、あるいは女の匂い)を嗅ぎつけてる俺を見つけられるはずさ
Federales(サツの連中)はバーの周りにも、俺たちの首の後ろにも、そこら中に張り付いてやがるがな
Boot Camp Clik & Smif-N-Wessun
Smif-N-Wessun(Tek & Steele)は1993年のBlack Moon客演でデビュー。1995年の1stアルバム『Dah Shinin'』は全米30万枚超のセールスを記録し、Da Beatminerzによる重厚なサウンドとパトワ語を交えた独特フロウで90年代中期ハードコアヒップホップの金字塔となった。しかしSmith & Wesson社からの商標権侵害訴訟(Cease and Desist)を受けてCocoa Brovazへ改名を強いられ、1998年の2nd『The Rude Awakening』リリース後にPriority Recordsとの契約も打ち切られた。
日本との繋がり
本楽曲のサンプル元である任天堂『スーパーマリオブラザーズ』(1985年)は、近藤浩治が作曲した8ビットメロディ。低所得者層のコミュニティではNESが「安価なベビーシッター」として機能し、マリオの電子音はブルックリンのギャングスタたちの原風景の一部だった。さらにCocoa BrovazとBoot Camp Clikは、日本でも熱狂的な支持を受け——DJ MUROの渋谷セレクトショップ「Savage!」でTimberlandやElements of Styleが日本のB-Boyに広まった経緯も含め、日米のストリートカルチャーを深く繋ぐ存在だった。
キーワード解説
制作秘話 01
DJ Robがプロデュースした本楽曲のビートは、任天堂『スーパーマリオブラザーズ』の地下BGM・地上BGM・ジャンプ音・ミス音を無断サンプリング。1991年のBiz Markie著作権訴訟判例以降、クリアランスなしのサンプリングは商業リリース不可能となっていた。任天堂のような知的財産管理に厳格な企業がギャングスタラップへの使用を許可するはずもなく、最初から正規リリース不可能な楽曲として生まれた。
制作秘話 02
Priority Recordsを失い背水の陣にあったCocoa BrovazとDuck Down RecordsのDru-Ha・Buckshotは、この法的制約を逆手にとった。楽曲を非公式12インチアナログ盤(ホワイトレーベル)としてプレスし、ニューヨーク中のアンダーグラウンドなレコード店にゲリラ配布。Funkmaster FlexやRon GらミックステープDJたちが争ってプレイしたことで、口コミで爆発的に拡散した。
制作秘話 03
ストリートでの圧倒的なバズが決定打となり、Mos Def・Talib Kweli・Company Flowらを擁し帝国を築きつつあったRawkus RecordsがCocoa Brovazのポテンシャルを高く評価し新契約を締結。サンプリングの法的制約を逆にストリートのプロップス(尊敬)とビジネスの推進力へと転換したこの逆転劇は、ヒップホップのDIY精神と反骨心の勝利を体現している。
ゲーム音楽サンプリングの先駆
本楽曲は、ヒップホップにおけるゲーム音楽サンプリングをアンダーグラウンドレベルで決定的に大衆化させた先駆的な例として評価されている。後年、Lil Wayne・Drake・Kanye Westらがゲーム音楽を参照するフォーマットの礎を築いた。
Cocoa Brovaz
Brownsville, Brooklyn, New York · 1993–
TekとSteeleからなるブルックリンのデュオ。もとはSmif-N-Wessunとして1995年に『Dah Shinin'』でデビューし全米30万枚超のセールスを記録したが、Smith & Wesson社の商標権侵害訴訟によりCocoa Brovazへ改名を余儀なくされた。1999年にPriority Recordsを失った後、任天堂『スーパーマリオブラザーズ』を無断サンプリングしたゲリラトラック「Super Brooklyn」でストリートを席巻し、Rawkus Recordsとの新契約を獲得。Boot Camp Clikの中核を担い、重厚なブーンバップとジャマイカのパトワ語的フロウで90年代東海岸ハードコアヒップホップの金字塔を打ち立てた。