WAX&THINK

We Dat Nice — Poor Righteous Teachers 和訳・スラング解説

アーティスト
Poor Righteous Teachers
リリース年
1996
プロデューサー
Father Shaheed
収録アルバム
The New World Order
エリア
NJ
BPM
89
サンプル元
Mobb Deep "Shook Ones Pt. II" (1995) / Big Daddy Kane "Just Rhymin' With Biz" (1988)

この記事の見どころ

  1. 01 "G is for God, where did gangsta come from?"——神性とストリートの矛盾を問う究極の一行
  2. 02 Five Percent Nationの語彙(cave dwellers / elevation / Supreme Mathematics)を徹底解説
  3. 03 Mobb Deepのハードコアな音源をコンシャスラップの乗り物に変えるサンプリングの逆転

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解説

■この曲で何を学べるか

「俺たちはナイスだ(We Dat Nice)」。一見シンプルな自己宣言に見えて、そこにはNation of Gods and Earths(Five Percent Nation)の神学・数秘術・人種批判が重層的に詰め込まれている。ニュージャージー州トレントン出身のコンシャスHHトリオ、Poor Righteous Teachersが1996年にリリースした最後の傑作。

この記事は、この曲のリリックに埋め込まれたスラング・造語・文化用語を「学ぶ表現」単位で取り出し、Five Percent Nationの思想背景とともに解説する教材として作りました。

核心となるMCはWise Intelligent。そしてDJ兼メンバーのFather Shaheedが自らプロデュースし、Mobb Deepの「Shook Ones Pt. II」をサンプリング元として選んだ。ハードコア・ギャングスタラップの象徴的音源の上に、精神的覚醒と黒人の神格化を説く歌詞を乗せるという、音楽的転倒の妙もこの曲の聴きどころです。

■なぜWe Dat Niceが教材として優れるか

1996年10月15日リリース。PRTの4枚目にして最後のスタジオアルバム『The New World Order』(Profile Records)収録13曲目。プロデュースはFather Shaheed。Tony Dが不在の本作でグループの自律性を証明した。Mobb Deep「Shook Ones Pt. II」(1995)とBig Daddy Kane「Just Rhymin' With Biz」(1988)をサンプリング。

アルバムへはFugees(Wyclef Jean、Lauryn Hill、Pras)、KRS-One、Nine、Brother J(X-Clan)、Junior Reidがゲスト参加。Billboard 200にはランクインしなかったが、Top R&B/Hip-Hop Albumsで57位を記録した。

この曲を理解するには、Five Percent Nationの専門用語を知る必要がある。cave dwellers、elevation、Supreme Mathematics、Ten Percenters、普通の英和辞典には載っていない用語が、ほぼ全バースに埋め込まれている。逆に言えば、それらを一つひとつ解読していく過程そのものが、1990年代コンシャスHHの思想と文化を丸ごと学ぶことになる。

ストーリーの流れ — まず曲全体をつかむ

We Dat Niceは表面上はシンプルな自己宣言だが、バースごとに異なる神学的・政治的テーマが積み上がる構造を持つ。Five Percent Nationの専門用語が頻出するため、先に曲全体の流れをつかんでおくと、次章の各表現解説で「今バースのどこにいるか」が立体的に見えてくる。

Verse 1(Wise Intelligent)は、支配層・権力者・社会の抑圧者を次々と列挙するカタログから始まる。cave dwellers(洞窟住民=Five Percentの白人への呼称)から始まり、New World Order(秘密結社的な陰謀論的世界秩序)、エイズ陰謀論まで、1990年代コンシャスラップのレパートリーを一気に並べていく。そして後半、「俺たちはただのラッパーじゃない、黒人の状況を変えているんだ」という宣言でバースを閉じる。

Chorus / Hookは曲のタイトルをそのまま音にしています。「知識の光を輝かせる」という比喩から、「どんなMCも凍らせる、それくらいナイスだ」というバトルラップの自己評価まで。Five PercentでいうGod(神)としての自己認識と、MCとしての技量の自信が重なる。

Verse 2(Wise Intelligent)は神学的なバースで、自身を「all eye seeing(全てを見る目)」=神として語り、イエス・キリストが黒人だったという黒人解放神学的テーゼをヨハネの黙示録の引用で展開する。crackatalism(造語)や politricks(造語)、Ten Percentersという教義用語が登場する濃密な2分間。

Verse 3(Wise Intelligent)に、この曲で最も知られる一行がある。「G is for God, where did gangsta come from?」。Gというアルファベットがギャングスタラップに横取りされたことへの問いかけ。科学的数値(地球の質量 = six sextillion tons)をリリックに織り込むSupreme Mathematics実践の場でもある。最後は「この情報を家に持ち帰ってプラスの教訓にしろ」というPRT一流の教育的締めくくり。

※批評・教育目的での引用。全歌詞対訳は掲載せず、解説に必要な断片のみを使用しています。

学ぶ表現 — スラング・造語・Five Percent語彙・韻

各見出しは「この曲から学べる英語表現」。マイクはその表現が出てくるセクション。引用は解説に必要な最小限の断片のみです。Five Percent Nationの専門用語を多く含むため、辞書を引いても意味が取れない語を重点的に解説します。

cave dwellers — Five Percent Nationの人種語彙

★ 思想語彙
Wise Intelligent(Verse 1)

Something for cave dwellers

洞窟住民へ贈る言葉

▶ Verse 1の冒頭一行目。列挙の起点となる語。

この曲の最初の言葉が「cave dwellers」(洞窟に住む者)。これはFive Percent Nationの教義に由来する白人への呼称です。その背景にあるのは、「黒人(オリジナル・ピープル)がアフリカで文明を築いていた頃、白人は寒冷なヨーロッパの洞窟で生き延びるために皮膚の色素を失った」という擬似歴史観。差別語としての側面を持ちつつ、Wise Intelligentはここを起点に「権力構造への挑戦状」として曲全体を展開させる。

注目は「Something for cave dwellers」という構文。通常なら「〜への/〜向けの」と訳すが、これは「洞窟住民に届けるメッセージ」なのか「洞窟住民への批判」なのか、意図的に曖昧にしてある。冒頭の一語でリスナーを思想的な緊張の中に引き込む書き出し。

語法 — どう使うか ▼

dweller は「住む人・居住者」を意味する名詞(動詞 dwell の派生)。cave dweller(洞窟住民)、city dweller(都市生活者)のように 場所 + dweller の形で使う。日常英語では古風・書き言葉的で、会話よりも文学・学術文脈に出やすい。この曲では専門術語として機能している。

crackatalism / politricks — 造語に二重批判を込める

★ 造語
Wise Intelligent(Verse 2)

This vi-olent envi-ronment / Full of crackatalism and politricks and Ten Percenters

この暴力的な環境 / 白人資本主義と政治的欺瞞、そしてテン・パーセンターに満ちている

▶ Verse 2中盤、三つの標的を一行に圧縮する件。

この一行に造語が二つ仕込まれている。まず crackatalism。「cracker」(白人への蔑称)+「capitalism」(資本主義)の合成語で、白人が支配する資本主義体制を批判するFive Percent特有の語彙です。次に politricks。「politics」(政治)+「tricks」(詐欺・欺き)のブレンド語。政治が本質的に民衆を欺くシステムだという批判が一語に圧縮されている。

さらに韻も仕込まれている。「envi-ronment」のシラブルの切り方が変則的なのに気づいただろうか。「vi-olent」「envi-ronment」と、Wise Intelligentは意図的にリズムを崩してから「crackatalism」で引き戻す。この変則的な切り方こそ、このバースが教材として面白い理由の一つです。

語法 — どう使うか ▼

-ism」を接尾辞として既存語に付けて新しい概念語を作るのは英語の造語の定番手法(socialism / capitalism / racism…)。ヒップホップでは既存の -ism に別の語幹を合成することで、既存の政治概念を批判的に読み替える造語が頻出する。crackatalism はその典型例。意味を2語から一気に圧縮する経済的な手法でもある。

Ten Percenters — Five Percentの3階層モデル

★ 思想語彙
Wise Intelligent(Verse 2)

Who know the truth but hold it back from the youth

真実を知りながら若者から隠している者たち

▶ Verse 2、Ten Percentersの定義を直後の行で示す件。

Five Percent Nationは人類を三層に分類する。①Five Percent(5%)、真実を知り実践する者(Gods and Earths、PRTがここに属する)。②Ten Percenters(10%)、真実を知りながら民衆から隠す者(聖職者・政治家・メディアなど支配的知識階層)。③残りの85%、盲目で知識を持たない大衆(Blind, Deaf and Dumb)。

「Poor Righteous Teachers(貧しくも正義なる教師たち)」というグループ名そのものが、この5%の定義を言葉にしたものなんです。Ten Percentersへの批判がサビの一歩手前で来ることで、曲全体のテーゼ、「俺たちはただのラッパーじゃない、教師だ」が明確になる。知っていて隠す者への怒りと、85%に届けようとする使命感が、このグループの核心にある。

elevation — Five Percentのキーワード語彙

★ 思想語彙
Wise Intelligent(Verse 1)

My occupation's to stimulate your elevation / To motivate and navigate through revelation

俺の使命はお前の高みを刺激すること / 啓示を通じて動機づけ、道を示すこと

▶ Verse 1終盤、PRTの使命宣言の核心。

elevation。物理的には「上昇・高さ」を意味するが、Five Percent Nationの文脈では「精神的・知的向上」を指す専門語として機能する。同義語として uplift も頻出する(後のJ. Coleらが引き継ぐ語でもある)。この曲のコーラス「elevate to great heights」もこの二重の意味が走っている。マイクで精神的に上昇するという、文字通りの意味と比喩的な意味の重なりだ。

さらに行の韻を見てほしい。occupation → stimulate → elevation → motivate → navigate → revelation。「-ation」で揃えながら、動詞 stimulate / motivate / navigate が挟まる構造で、教育的使命感をリズムそのもので体現している。言葉の意味と音が一体化した好例だと思います。

語法 — どう使うか ▼

elevation は「上昇・標高・高揚」を意味する名詞。ヒップホップ・コンシャスラップでは特に「精神的・知識的な向上」の意味で使われ、「higher consciousness(より高い意識)」と意味的に重なる。seek elevation(向上を求める)、community elevation(コミュニティの向上)のように使う。後の時代にはKendrick LamarやJ. Coleの楽曲にも引き継がれる語彙。

★ 聴きどころ

G is for God — この曲の最重要ライン

Wise Intelligent(Verse 3)

G is for God, where did "gangsta" come from?

GはGodのG——「ギャングスタ」はどこから来たんだ?

▶ Verse 3の冒頭。この曲で最も引用される一行。

この一行が、この曲の核心にして1990年代のコンシャスラップとギャングスタラップの哲学的対立がぎゅっと詰まった表現です。Five Percent NationではSupreme Alphabet(至高のアルファベット)において、Gは「God」を表す。黒人男性は神(God)であり、Gという文字はその神聖さの象徴だった。しかし1990年代、gangsta(ギャングスタ)ラップの台頭でGという字が「ギャングスタ」の略号として席巻した。

Wise Intelligentの問いは「そのGはどこから来たんだ?」。答えは言っていない。リスナーに問う形で、ギャングスタラップがFive Percentの聖なる文字を商業的・暴力的な文脈に横取りしたという告発を含んでいる。問いの形を取ることで説教にならず、リリックとして成立させている運びがうまい。この一行を知っておかないと、PRTのスタンスは半分も理解できない。

six sextillion tons Earth — 科学をリリックに織り込む

★ Supreme Mathematics
Wise Intelligent(Verse 3)

The Wise one ain't done, six sextillion tons Earth

賢者はまだ終わっていない、6×10の21乗トンの地球

▶ Verse 3中盤、神(Wise Intelligent自身)が宇宙を保持するという宣言の直前。

six sextillion tons(約6×10²¹トン)。これは地球の実際の質量です。Five Percent Nationには「Supreme Mathematics」という独自の数秘術体系があり、科学的知識・数字・宇宙論を「真実の体系」として日常的に扱う文化がある。ただ「大きい」「すごい」という誇張ではなく、実際の科学的数値を歌詞に織り込む、これがSupreme Mathematicsの実践的な形だ。

リリック上の機能も考えると面白い。「six sextillion tons」という非日常的な数字をぶつけることで、リスナーは「あれ、合ってる?」と一瞬止まる。その一瞬の驚きが、次の「I levitate, hold the universe in place(俺は浮遊し、宇宙を定位置に保つ)」という神的な自己宣言への転換を際立たせる。知識と誇示を同時に達成する一行です。

語法 — どう使うか ▼

sextillion は10の21乗(1,000,000,000,000,000,000,000)。英語の数字スケール: million(10⁶)→ billion(10⁹)→ trillion(10¹²)→ quadrillion(10¹⁵)→ quintillion(10¹⁸)→ sextillion(10²¹)。日常英語ではほとんど使わない単語だが、ヒップホップでは知識の誇示(flexing knowledge)として大きな数字・科学用語を使う表現文化がある。

all eye seeing — 神の全知とFive Percentの自己神格化

★ 思想語彙
Wise Intelligent(Verse 2)

My state of being as the all eye seeing

「全てを見る目」として存在する俺

▶ Verse 2、自身を神として語り始める件。

all eye seeing(全てを見る目)は、神の全知・全能を表す表現。フリーメイソンのシンボル「プロビデンスの目(Eye of Providence)」とも意味的に重なり、1ドル札の裏のピラミッドの頂点にある「目」を連想させる。Five Percent Nationでは「黒人男性が神(God)である」という教義の核心があり、Wise Intelligentは自身を「全てを見る神」として語ることで、この教義を一人称で体現している。

興味深いのは、「all-seeing eye」(全知の目)という既存の表現を「all eye(単数)seeing」と変形させている点です。文法的には「all-eyes-seeing」が標準的ですが、ここを単数形にすることで、プロビデンスの目というシンボルを直接指示しながら、音のリズムも整えている。細かい変形に意図が宿るWise Intelligentのリリックの特徴です。

Wool hair, bronze skin — 聖書引用でテーゼを立てる

★ 引用・論証構造
Wise Intelligent(Verse 2)

Revelations Chapter One 13 and 16:
"Wool hair", "bronze skin", Jesus was blacker than me

ヨハネの黙示録1章13節と16節:
「羊毛のような髪」「青銅のような肌」——イエスは俺より黒かった

▶ Verse 2後半、イエスが黒人だったというテーゼを聖書で論証する件。

「イエスは黒人だった」はFive Percent Nationと黒人解放神学の核心テーゼの一つ。Wise Intelligentはそれをただ言い放つのではなく、章・節を明示して聖書を引用するという論証の形を取る。ヨハネの黙示録1章13-16節には「頭の毛は白い羊毛のよう」「足は炉で精錬された真鍮のよう」という記述が実在し、黒人解放神学ではこれをイエスがアフリカ系の外見を持つ証拠として解釈する。

ここで効いているのが論証の形式なんです。「Revelations Chapter One 13 and 16」とキッパリ典拠を明示し、引用をダブルクオートで括って、最後に結論「Jesus was blacker than me」を置く。演説・論文の構造をそのままバースに持ち込んでいる。PRTが「教師」を自称する所以がここに出ていて、思想をエンターテインメントとして届けながら、論証の形を崩さない。

I'm that nice / we dat nice — 「ナイス」の多義

★ ヒップホップ語彙
Wise Intelligent(Hook / Chorus)

Take flight, make ice of any emcees you like, I'm that nice

飛び立って、どんなMCも凍らせる——それくらいナイスだ

▶ Chorus、コーラスの締めくくり。曲タイトルに直結する一行。

日常英語の nice(いい、親切な、感じのいい)と、ヒップホップ文脈の nice は意味が全然違う。バトルラップの文脈では「MCとしての技量・スキルが異常に高い」という意味で使われる最高の賛辞です。「I'm nice on the mic」=「俺はマイクの前で別格だ」。曲タイトル「We Dat Nice」の「dat」は「that」のAAVE的発音転写で、「俺たちこそそのナイスだ」という強調を含む。

直前の「make ice of any emcees you like」も面白い。make ice of(氷にする=完全に打ち負かす)という言い回しで、知識と神の力を持つ自分の前では、どんなMCも凍りついてしまうという誇示。神性とMCとしての技量を重ねて「nice」の一語に着地させる構造が鮮やか。この一行だけでコーラス全体が立っている。

語法 — どう使うか ▼

ヒップホップの nice(名詞的用法・形容詞)は「MCスキルが高い・技量が別格」。He's niceShe's nice with the bars のように使う。対義語は weak(ヘタクソ)や garbage(ゴミ)。日常英語の「親切」「感じがいい」とは完全に別の語として捉えておくとリスニングが楽になる。

datthat のAAVE的な発音を表記したもの。dat girl(あの女)、we dat nice(俺たちこそそれだ)のように指示詞として使う。書き言葉・標準英語では使わないが、ヒップホップの歌詞・会話・SNSでは頻出する表記。

son — 5パーセント式の呼びかけ語

★ ヒップホップ語彙
Wise Intelligent(Verse 3)

Ra East the God seed, keep perfecting it, son

ラ・イースト、神の種——完璧を追い求め続けろ、son

▶ Verse 3、精神的師匠Ra Eastへの呼びかけ。

son。文字通りには「息子」だが、NYヒップホップとFive Percent Nationでは仲間・弟分・親しい者への呼びかけとして広く使われる。「son」は「sun(太陽)」とも掛けており、Five Percentの教義では黒人男性が神(God)=太陽(sun)であることを含意させる。ここで呼びかけられているRa Eastは、PRTの精神的師匠とされる5パーセント・ネイションのエルダー(長老)で、Ra(古代エジプトの太陽神)の名も持つ。

「son」はWu-Tang ClanやNasの楽曲でも多用され、1990年代NYヒップホップの呼びかけ語として定番化した。現代では地域を問わず使われるが、語源的にはFive Percent Nationのコミュニティから広まった語です。この一語を知っておくと、当時のNYヒップホップを聴く際のリスニングが格段に楽になります。

語法 — どう使うか ▼

son(呼びかけ語)は文の末尾や独立した感嘆詞として使う。What's good, son?(どうよ?)、I'm telling you, son…(聞いてくれ、)のように。書き言葉でも歌詞でも機能する。同義の呼びかけ語として god(Five Percent直接)、B(= Brotherの略)、dukefam なども同じ系統。

文化的背景 — Five Percent NationとGod Hop

Nation of Gods and Earths

1964年ハーレム発——「俺たちが神だ」という思想

1964年、Clarence 13Xがハーレムで創設した運動がNation of Gods and Earths(NGE)、通称Five Percent Nation。Nation of Islamから分派した彼は、「黒人男性こそが神(Allah)であり、黒人女性は地球(Earth)だ」という教義を説いた。人類を5%(Gods and Earths)・10%(Ten Percenters)・85%(The Masses)に分類し、5%の使命は85%に真実を教えることだとした。

Poor Righteous Teachersのグループ名「貧しくも正義なる教師たち」は、この5%の定義そのものを名前にしたものなんですよね。Supreme Mathematics(数字に神聖な意味を与える体系)とSupreme Alphabet(アルファベット各文字に概念を対応させる体系)は、この運動独自の「暗号言語」として機能する。G=God、B=Be/Born、K=Knowledgeといった対応関係が、リリックの随所に埋め込まれている。知っているかどうかで、リリックの意味が文字通り変わってしまう。

God Hop

Rakim、Wu-Tang、Brand Nubian——Five Percentとヒップホップの接続

Five Percent Nationの思想はRakim(Eric B. & Rakim)、Wu-Tang Clan、Brand Nubian、Nasなど1990年代NYヒップホップの中核アーティストに浸透し、God Hopとも呼ばれるサブジャンルを形成した。Rakimが「I Know You Got Soul」や「Paid in Full」で自身をGod(神)として語り始めたのが1987年。Wu-Tang Clanは教義をグループ名・メンバー名・言語全体に組み込んだ。PRTはその中でも最もストレートに思想を説教した。「教える」ことを使命とするグループだからだ。

キーワード早見表

この曲で学んだFive Percent語彙の整理

cave dwellers Five Percent教義による白人への呼称。色素喪失の擬似歴史観から
elevation 精神的・知的向上を意味するFive Percentのキーワード。上昇・高揚
Supreme Mathematics 数字に神聖な意味を与えるFive Percent独自の体系。科学的数値を教義と結ぶ
Ten Percenters 真実を知りながら民衆から隠す者(聖職者・政治家など)。人口の10%
all eye seeing 神の全知を表す表現。プロビデンスの目と意味的に重なる
son / sun 仲間・弟分への呼びかけ。太陽(sun)=神(God)という掛け詞
God Hop Five Percent思想を組み込んだヒップホップのサブジャンル。PRTはその筆頭

サンプリングの逆転

Mobb Deep「Shook Ones Pt. II」を選んだ意味

ハードコアの音源を解放の乗り物に変える

Father Shaheedがサンプリング元として選んだのは、Mobb Deepの「Shook Ones Pt. II」(1995)。クイーンズブリッジ発のハードコア・ギャングスタラップを象徴する一枚です。「ain't no such things as halfway crooks(半端な悪党なんていない)」で知られるあのビート。

その選択は意図的な転倒だと思う。ストリートの恐怖と暴力を音楽化した音源の上に、精神的覚醒と黒人の神格化を説く歌詞を乗せる。音素材を文脈ごと書き換えてしまう行為だ。ハードコアの音を「解放の乗り物」に変換するこの手法は、ヒップホップにおけるサブヴァージョン(文脈の転換)の最高峰の一つだと感じます。Mobb Deepのプロデュースチームへのリスペクトでもあり、同時に「俺たちはその音で別の何かを語る」という宣言でもある。

もう一つのサンプル、Big Daddy Kane「Just Rhymin' With Biz」(1988)は、Biz Markieとのコラボ曲でゴールデンエイジ・ヒップホップの名盤『Long Live the Kane』収録。こちらは技量自慢(flexing)の古典として、We Dat Niceの「我々はナイスだ」という自己評価の文脈に自然に接続する。

レガシー

『The New World Order』はBillboard 200にランクインしなかったが、Top R&B/Hip-Hop Albumsで57位を記録。Fugees(Wyclef Jean、Lauryn Hill、Pras)、KRS-One、Nine、Brother J(X-Clan)、Junior Reidら当時のコンシャスHH界の重鎮が集結した批評的傑作として後世に残った。「We Dat Nice」はその中でも、PRTの世界観を最も凝縮した一曲として再評価される。

「G is for God, where did gangsta come from?」。この一行が象徴するように、PRTは1990年代中期にコンシャスラップとギャングスタラップが並立する中で、妥協を一切拒んだ。商業的成功よりも精神的覚醒を優先したその姿勢は、後のKendrick LamarやJ. Coleがコンシャスラップを復権させる際に参照した文脈の一部でもある。

日本では1990年代後半〜2000年代にかけて、コンシャスHHの愛好家やレコードコレクターを中心にPRTが発見された。「神学×ラップ×ブームバップ」という組み合わせは、Brand NubianやX-Clanと並んで語られることが多く、アンダーグラウンドHHリスナーに根強い支持を持つ。Five Percent Nationの教義を知らずに聴いても「なんか熱い曲」で終わってしまう。そこで今回のような解説記事に意味があると思っています。

もっと深く

背景を読む

制作の裏側・時代背景・評価の詳細は、各コラムで掘り下げている。

アーティストについて

Poor Righteous Teachers

Trenton, New Jersey · 1989–1996

ニュージャージー州トレントン出身のヒップホップ・トリオ。リードMCのWise Intelligent、バッキング・ボーカル兼プロデューサーのCulture Freedom、DJ兼プロデューサーのFather Shaheedの3人で構成。1990年にデビューアルバム『Holy Intellect』(Profile Records)をリリースし、「Rock Dis Funky Joint」がゴールドに迫るヒットを記録。Nation of Gods and Earths(Five Percent Nation)の教義に基づき「黒人こそが神であり文明の根源」という思想をラップに昇華させた「God Hop」の代表的存在。Rakim、Brand Nubian、X-Clan、KRS-Oneらと並びコンシャスラップの最前線を走った。1996年の最終作『The New World Order』ではFugees、KRS-One、Junior Reidがゲスト参加し、商業的苦戦とは裏腹に「アンダーグラウンドのマスターピース」として後年再評価された。

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