Scenario (Remix) 和訳・意味・スラング解説 | A Tribe Called Quest

アーティスト
A Tribe Called Quest feat. LONS & Kid Hood
プロデューサー
Q-Tip
収録アルバム
The Low End Theory
エリア
NY
BPM
97

この記事の見どころ

  1. 01 Kid Hoodは録音直後に銃弾に倒れた——Busta Rhymesが急遽スタジオで録音した追悼の辞
  2. 02 日本のDJ Muroが「オリジナルを超えるフロア・アンセム」として伝説的にヘビープレイ
  3. 03 7人のMCが全員新規ヴァースで挑んだ「7 M.C.'s Mix」——Native Tonguesの頂点

Kid Hood ドキュメンタリー

The Kid Hood Story — 録音直後に亡くなった幻のラッパーの真実

Intro · Busta Rhymes

★ ヒップホップ史上最も痛ましい追悼の辞

Here in 1992, we present the fabulous "What's the Scenario" remix
Whereas, there are seven MC's
Six which are in 肉体として、実際に生きている状態。対となる「spiritual essence(魂の形)」がKid Hoodへの追悼を示す , and one which is in 録音直後に銃弾に倒れたKid Hoodが「魂として」楽曲に参加していることを指す。Busta Rhymesが急遽吹き込んだ追悼の辞
And he goes by the name of, uh... (Hood!)

1992年の今、俺たちは「What's the Scenario」の素晴らしいリミックスをお届けするぜ
ここには7人のMCが集結している
6人は肉体としてここに存在し、1人は魂の形として存在しているんだ
そして、ヤツの名前は……(フッド!)

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このイントロはKid Hoodの死の報を受けたBusta Rhymesが急遽スタジオに戻り吹き込んだ。「肉体として存在する6人、魂として存在する1人」——その1人がKid Hood。神妙で重々しい語り口から一転、次の瞬間にKid Hood本人の荒々しいヴァースが爆発する構成は、聴く者に強烈な鳥肌を立たせる。海外ヒップホップ・コミュニティでも「史上最も美しく、かつ痛ましいシャウトアウトの一つ」として語り継がれている。

Verse 1 · Kid Hood

★ 遺作となった凶暴なヴァース

Check your rhyme, punk that ass or get got, F it (Shiittt!)
I lick buckshots
Hood — madman, I rip up stages
Laid out on your wages, I'm wild like 1986年にNYで警察官6人を射撃して逃走した実在の人物。当時のハーレムで「ストリートの英雄」として語られた凶悪事件の主役

てめえのライムを確認しな、ケツを蹴り上げるか、やられるかだ、クソが(クソッタレ!)
俺は散弾銃の弾を喰らわせてやる
フッド——狂人さ、俺はステージを引き裂いてやる
お前の稼ぎを叩き潰す、俺はラリー・デイヴィスみたいにワイルドだぜ

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「Larry Davis」は1986年にNYで警察官6人を銃撃し逃走した実在の人物。当時のハーレムで「体制に反抗した英雄」として語られた——Kid Hoodが「それと同じくらいワイルド」と自己紹介するオープニング。「Punk that ass or get got」は「ケツを蹴り上げるか、やられるか」——相手の選択肢を瞬時に詰める冒頭の凄みが凄まじい。

Extra! Extra! Pick up a 銃の弾倉(マガジン)。「号外!号外!」という新聞売りの呼び込みと「弾倉を拾え」のダブルミーニング
I tear ass out the frame (Ha!), and grab my dick (Oh!)
I'm a アメリカの玩具「ロック'エム・ソック'エム・ロボット」。力ずくでパンチを打ち合うロボット玩具から転じて「暴力的に圧倒する」の意 robot, kid, I drop bombs
I'm rugged and deadly, so I shit on the petty

号外だ!号外!銃の弾倉(クリップ)を拾いな
フレームからケツを引きずり出して(ハッ!)、俺の股間を掴んでやる(オー!)
俺はロック'エム・ソック'エムのロボットだぜ坊主、爆弾を落としてやる
俺は無骨で致命的、だからちっぽけな奴らなんてクソみたいなもんさ

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「Extra! Extra!」は新聞売りの掛け声——そこに「clip(弾倉)を拾え」を続けることでニュースとストリートの暴力が衝突する。「Rock'Em Sock'Em robot」は1960年代のアメリカの玩具。ガキのオモチャに自分を喩えることで「遊び半分で圧倒する余裕」を誇示するユーモアと凄みの同居。

I baseball bat a bastard, I'm bad news
I'm crazy and clever, cut throats of crews
I'm death on the phono, my skills are porno
You say "Oh, no!", you bitch-ass (Hey!)

クソ野郎を野球のバットでぶん殴る、俺は厄介な存在さ
俺はイカれてて賢い、クルーの喉元を掻き切ってやる
俺はマイクを握れば死神、俺のスキルはポルノみたいにヤバい
お前は「オー、ノー!」と叫ぶのさ、このビッチ野郎が!(ヘイ!)

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「death on the phono(フォノ=マイク)」はDJ機材の用語転用。「skills are porno」は「スキルが際どいほど生々しく強烈」の意——ヒップホップ黎明期のボースティング(自慢)の典型的な誇張表現。「crazy and clever」の対比がKid Hoodのキャラクターを一言で集約している。

★ 「Two tears in a bucket」のニヒリズム

I bag up waste, electrifyin', I'm prime-time
I slaughter slime, I'm the greatest of all time
Sick-ass brother, nasty-ass nigga
Pump slugs in your face, and dump that ass in the river
「バケツに涙2粒——知るかよ!」アフリカ系アメリカ人の古い口語表現。「少し泣いたところで状況は変わらない」というニヒリズム。Kid Hoodの死と重ね合わせると非常に重い響きを持つ Kick the can
(Say what?! Say what?!)
I'm a bad- bad- bad- bad- Oh, shit.

ゴミ共を袋詰めにしてやる、電撃的だろ、俺がゴールデンタイムの主役だ
雑魚を屠る、俺が史上最高さ
イカれたブラザー、えげつない黒人だ
お前の顔面に鉛の弾をブチ込んで、そのケツを川に投げ捨ててやる
バケツに涙を2粒、知るかよ!缶でも蹴り飛ばしな
(なんだって!? なんだって!?)
俺は極悪・極悪・極悪・極悪……ああ、クソッ。

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「Two tears in a bucket, fuck it!」はアフリカ系アメリカ人の古い口語表現——「バケツに涙2粒程度、状況は変わらない」というニヒリズム。録音のわずか数日後に命を落としたKid Hood自身が放ったこの言葉は、今や予言的な重みを帯びて聴こえる。ヴァース末尾の「I'm a bad-bad-bad-Oh, shit.」は唐突なブツ切れ——これも楽曲全体の「切断された命」という主題と奇妙に共鳴する。

Verse 2 · Phife Dawg

★ Five-Foot Assassinの宣戦布告

Quick is how I flip from the tip of the lip
Punchin' out hits like Gladys Knight & The Pips
The Phife Dawgの異名。身長が約5フィート3インチ(約160cm)と小柄だったことに由来。小柄でも圧倒的スキルを持つという逆説的な誇示 has just raided your area
Your booty rhymes are wack
And that's the reason I ain't hearin' ya

俺の唇の先から飛び出す言葉のフリップは素早いぜ
グラディス・ナイト&ザ・ピップスみたいにヒットを連発してやる
5フィートの暗殺者が、たった今お前のエリアを強襲したぜ
お前のケツみたいなライムはダサすぎる
だから俺はお前の言葉なんて聞いちゃいないんだ

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「Five-Foot Assassin」はPhife Dawgのトレードマーク的な異名。身長約160cmという小柄な体格と「暗殺者」を組み合わせた逆説的ボースティングは、「見た目ではなくスキルがすべて」というヒップホップの根本原理を体現している。「Gladys Knight & The Pips」は1960〜70年代のR&Bグループ——「ヒットを連発するように韻を踏む」という音楽的な自慢に活用。

So! Roll out the red carpet 'cause I'm gettin' this
Vanilla Ice platinum? That shit's ridiculous
Excuse my French, but profanity is all I knew
And to you other sellouts — oh, yeah, F you too

だから!レッドカーペットを敷きな、俺がこれを頂くからな
ヴァニラ・アイスがプラチナムだって?そんなのバカげてるぜ
汚い言葉で悪いが、俺は放送禁止用語しか知らないんでね
そして他のセルアウト野郎ども——ああ、お前らにもファックだ

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「Vanilla Ice platinum」ディスは当時のヒップホップ・コミュニティの怒りを代弁する。1991年、白人ラッパーのVanilla Iceが「Ice Ice Baby」でプラチナムを獲得し批判を集めた。「sellouts(魂を売った奴ら)」——商業的に妥協して黒人文化を消費・搾取する輩への明確な宣戦布告。

And let it be known, I'm not the one to step to
You're better off callin' Boogie Down Productions(BDP)のオリジナルメンバーであるラッパー/DJ。ヒット曲「Call Me D-Nice」で知られる。「俺に喧嘩売るなら彼のような助っ人でも呼べ」というウィットに富んだ脅し to your rescue
Freestyle fanatic, probably the best around
As for corny MC's, like Chuck D, I Public Enemyの楽曲タイトル「Shut 'Em Down」(1991年)のネームドロップ。「フェイクなMCを完全にシャットダウン(圧倒・排除)する」の意

はっきりさせておくぜ、俺は喧嘩を売られる相手として間違ってる
助けを求めるなら、D-Niceでも呼んだ方がマシだぜ
フリースタイルの狂信者、おそらくこの辺りじゃ最高峰さ
ダサいMCどもに関しては、チャック・Dみたいに俺が「シャット・ダウン」してやる

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「D-Nice」はBoogie Down Productionsのメンバー——「俺に喧嘩売るくらいなら彼を助けに呼べ」というユーモラスな脅し。「Shut 'Em Down」はPublic Enemyの1991年のシングル。Chuck Dの名を引きつつ「彼の楽曲タイトルの如く、俺もフェイクを黙らせる」という二重のリファレンスが光る。

The Phife Dawgのタイトル。「Artical」は「Article(記事/条文)」の意図的な誤記——「Art(芸術)」を内包させた造語。「Don(首領)」との組み合わせでヒップホップ界の頂点という意味 of hip-hop, and I won't stop
The Five-Foot Assassin has come to wreck 'nuff shop
So do like Michael Jackson and "Remember the Time"
(Do you remember?)
Put on your dancin' shoes or somethin'
'Cause you sure can't rhyme

ヒップホップ界の本物のドン(Artical Don)だ、俺は止まらない
5フィートの暗殺者が、店をぶっ壊すためにやって来たぜ
だからマイケル・ジャクソンみたいに「あの頃を思い出せ(Remember the Time)」
(覚えてるか?)
ダンスシューズでも何でも履きな
だって、お前には絶対にライムできないからな

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「Artical Don」はPhife Dawgのユニークなタイトル——「Article(記事)」の誤記に「Art(芸術)」を忍ばせた造語。「Don(首領)」と組み合わせて「ヒップホップの芸術的首領」という意味を持つ。締めの「Remember the Time」はMichael Jacksonの1992年のシングル——ライムもできない奴はダンスでもしてろ、という軽蔑のオチが鮮やか。

Verse 3 · Cut Monitor Milo / Dinco D / Charlie Brown

(Big up! Big up!)

(リスペクトだ!リスペクト!)

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L.O.N.S.のDJ/プロデューサーであるCut Monitor Miloは独立した長文ヴァースを持たず、ハイプマン(煽り役)として合いの手を入れる。Dinco DとCharlie BrownはL.O.N.S.のメンバーとしてヴァースを担当するが、このリミックスでの各自のパートはQ-Tipのシャウトアウト(「Hood!, Phife, Milo, Dinco and C. Brown」)によって7人全員の参加が確認される。

Verse · Q-Tip

★ 8人のブラック・ブラザーの宣言

Check it out, everybody — rhymes and mics
Black mens gettin' loot (Doing what they like!)
Eight black brothers in the public eye
If you listen very close, I will tell you why
(Hood!), Phife, Milo, Dinco and C. Brown
Shaheed, myself, and Busta Bust Down

チェックしな、みんな——ライムとマイクだ
黒人たちが金を稼いでる(好きなことをやってな!)
世間の注目を浴びる8人の黒人ブラザーたち
よく耳を澄ませば、その理由を教えてやる
(フッド!)、ファイフ、マイロ、ディンコ、それにC・ブラウン
シャヒード(Ali Shaheed Muhammad)、俺自身(Q-Tip)、そしてバスタ・バス・ダウン

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7人のMCを名指しでシャウトアウトしながら「8人」と言うのは、亡きKid Hoodを含めているため——あるいはAli Shaheed Muhammadを加えた解釈もある。「Busta Bust Down」はBusta Rhymesのニックネーム。Q-TipがATCQのフロントマンとして全員を紹介するホスト役を担い、楽曲のアンセム的な性格を強化する。

Will commence to rock (Rock!), so bring on the flocks (Flock!)
Interrogation for the knockin' of the box
The boom-box ruler controls the 延髄(脳幹の一部)。「ブームボックスが脳の深部まで支配する」という知的なボースティング——Q-Tipらしい医学用語の転用
None come cooler, I win like NFLの伝説的コーチ、ドン・シューラ(Miami Dolphins)のこと。通算勝利数記録保持者——「誰も俺より冷静にはなれないし、勝ち続ける」の意

ロックし始めるぜ(ロック!)、だから群衆を連れてきな(群衆を!)
ラジカセを鳴らすための尋問だ
ブームボックスの支配者が延髄(脳の深部)をコントロールする
これ以上クールな奴はいない、俺はシューラみたいに勝つ

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「medulla(延髄)」という医学用語の投入がQ-Tipらしい——「ブームボックスが脳の奥深くまで支配する」という知的なボースティング。「Shula」はNFLの伝説的コーチ、ドン・シューラ。通算328勝という当時の最多勝利数保持者を引用して「俺は勝ち続ける」という意志を示す。スポーツの勝者をライムの比喩に使う技法はネイティブ・タン特有の知的遊戯。

So bust out the move as you start to pursue her
Intensified mind, non-blunt consumer
Tip will come booty? (Well, it's only a rumor!)
The meaning's so deep that it starts brain tumors (Tumors!)
Peace to Hood, baby, from the midnight crooner
Smoke 'em up later, if not then sooner

だから彼女を追いかけ始めるように、動き出せよ
研ぎ澄まされた精神、ブラントを吸わない消費者さ
ティップがダサくなるって?(まあ、ただの噂に過ぎないね!)
意味が深すぎて、脳腫瘍を引き起こすレベルだぜ(腫瘍!)
フッドに安らかに、ベイビー、真夜中のクルーナーより
奴らを後で煙に巻いてやる、もしそうじゃなくてもすぐにな

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「Peace to Hood, baby」——Q-TipがKid Hoodへ捧げる追悼の言葉。「midnight crooner(真夜中のクルーナー)」という詩的なアイデンティティでQ-Tipは自分を定義する。「non-blunt consumer(ブラントを吸わない)」は他のMCが麻薬を誇示するのに対し、ドラッグなしにリリックのみで勝負する姿勢——ネイティブ・タンの知的姿勢の表明。

Verse · Busta Rhymes

★ 92年の狂気——Flipmodeの爆発

Hey! What we gon' do (Dooo!) in '92?
Even though we had fun (Fuuun!) in '91
Wonderful my days, herb dream comin' down
Ponna-ponna! New sound leavin' cracks in the ground
What's goin on, my man? Goddamn!
And now my brain is hurtin'

ヘイ!92年に俺たちは何をするんだ(するんだ!)?
91年も楽しかったけどな(楽しかった!)
素晴らしい日々、ハーブの夢が降りてくる
ポナ・ポナ!地面にヒビを残すような新しいサウンドだ
どうなってるんだ、マイマン?ガッデム!
今、俺の脳ミソが痛んでるぜ

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Busta Rhymesの声の変形と高低差は当時のMCの中でも群を抜いていた。「Ponna-ponna!」はBustaが作り出したサウンドエフェクト——言語の限界を超えた即興的音声表現。「New sound leavin' cracks in the ground」は「このビートが地面にひびを入れるほど新鮮」というビート称賛。1992年という新時代の幕開けを宣言するエネルギーが爆発している。

Listen up! Busta, rhythm will hit 'em then I get 'em
Flip on 'em, shit on 'em, hit on 'em, then I will sit on 'em
Open up your mouth if you want the food to get rude
Busta Rhymesが後に立ち上げるレーベル「Flipmode Squad」の原型となる言葉。「ひっくり返す(flip)モード」=スイッチが入ったBustaの狂気的なフロウのスタイル , 'cause I'm in the mood

よく聞け!バスタだ、リズムが奴らを打ちのめし、俺が捕らえる
奴らをひっくり返し、クソをぶっかけ、殴りつけ、そして奴らの上に座り込んでやる
食らいたいなら口を開けな、手荒にいくぜ
フリップモードだ、そういう気分だからな

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「Flip on 'em, shit on 'em, hit on 'em, then I will sit on 'em」——4つの動詞を畳み掛ける怒涛のフロウはBusta Rhymesのトレードマーク。「Flipmode」は後に彼が実際に立ち上げるレーベル名「Flipmode Squad」の原型。このリミックスでBustaはすでに自分のスタイルを完成させており、後の独自路線の萌芽が聴き取れる。

Ah-heh, ah-heh! Yeah, man, that's how it goes
Body drippin' with blood comin' out the nose
Give me a Band-Aid, what are you askin' for? (More!)
Only your sacred and pure
Yeah, y'all, in '92, I'm packin' my ゴキブリ(roach)=雑魚ラッパー・取るに足らない存在。「roach spray(殺虫剤)」は自分のラップスキルそのもの——雑魚を一掃する圧倒的な武器 (Anyway!)

アーヘッ、アーヘッ!イェー、マン、そんな感じだ
鼻から血が吹き出して、体が血まみれだぜ
絆創膏をくれよ、何を求めてるんだ?(もっとだ!)
神聖で純粋なお前だけさ
イェー、お前ら、92年、俺はゴキブリ・スプレーを持ち歩いてるぜ(とにかく!)

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「roach(ゴキブリ)」はストリートで「群がる厄介者・取るに足らない存在・雑魚ラッパー」を指す。「roach spray(殺虫剤)」はBustaのラップスキルそのもの——ゴキブリ(雑魚MC)を一掃する武器の比喩。「Blood comin' out the nose」はバトルの激しさを誇張した表現——フロウが相手を文字通り流血させるほど強烈という意味。

★ 「RRAOW!」——伝説の咆哮の再演

Take a lick, Tribe Called Quest, Leaders of the New School
Mad brother when stealthy
RRAOW! RRAOW! RRRAAAOW!
To my Busta Rhymesのオリジナル版「Scenario」の伝説のライン「Roar like a dungeon dragon」に由来。彼のスタイルを模倣するフォロワーたちを「自分の子供たち(babies)」と呼び影響力を誇示 , stop whinin'
I see my influence still shinin'!
More crazy in '92, uh oh, time to go, yo
That's the Scenario!

味わいな、トライブ・コールド・クエスト、リーダーズ・オブ・ザ・ニュー・スクールだ
ステルス状態の時は狂ったブラザーさ
ラァァオ!ラァァオ!ルァァァオ!
俺のドラゴンのベイビーたちよ、泣き言はやめな
俺の影響がまだ輝いているのが見えるぜ!
92年はもっとクレイジーになるぜ、アッオー、行く時間だ、ヨー
それが「シナリオ」だ!

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「RRAOW!」はオリジナル版「Scenario」でBusta Rhymesが放った「Roar like a dungeon dragon(ダンジョン・ドラゴンのように吠えろ)」という伝説的ラインの咆哮——ヒップホップ史上最も模倣された一節の一つ。「dragon babies(ドラゴンのベイビーたち)」はそのスタイルを真似るフォロワーたちへの呼びかけ。このリミックスでBustaはすでに自分の影響力を確認し、それを誇示している。締めの「That's the Scenario!」でタイトルを回収する鮮やかなアウトロ。

文化的背景

Native Tongues コレクティブ

知性とアフロセントリズムが生んだ東海岸の精神

ATCQ、De La Soul、The Jungle BrothersらによるNative Tonguesコレクティブは、マッチョイズムやギャングスタ・ラップとは一線を画す知的・平和的・アフロセントリックなスタイルを提唱した。その美学は1990年代の日本のストリートカルチャーにおいて極めて神聖なものとして受け入れられ、DJ Krush・DJ Muro・スチャダラパーらに直接的なインスピレーションを与えた。

日本との繋がり

渋谷・宇田川町のレコード村が聖地化した理由

当時の東京、特に渋谷・宇田川町周辺のレコード店で、『The Low End Theory』はDJたちのバイブルだった。特に「Scenario (Remix)」はDJ Muroをはじめとするハードコア・ディガーたちの間で「オリジナル版を超えるフロア・アンセム」としてヘビープレイされた。L.O.N.S.のコミカルかつエネルギッシュな多人数スタイルはRip Slymeなどにも多大な影響を与えたことが公言されている。

キーワード解説

楽曲を読み解く重要スラング・用語

spiritual essence 肉体を持たない魂の形——録音後に亡くなったKid Hoodへの追悼。Busta Rhymesが急遽吹き込んだヒップホップ史に残るエウロギー
Five-Foot Assassin Phife Dawgの異名。身長5フィート3インチ(約160cm)の小柄な体格と「暗殺者」を組み合わせた逆説的ボースティング
Flipmode Busta Rhymesの狂気的なフロウのスタイル。後に彼が立ち上げるレーベル「Flipmode Squad」の原型
dragon babies Bustaのオリジナル版ライン「Roar like a dungeon dragon」由来。彼のスタイルを模倣するフォロワーたちへの呼称
roach spray Bustaのラップスキルの比喩。roach(ゴキブリ)=雑魚ラッパーを一掃する殺虫剤
Two tears in a bucket アフリカ系アメリカ人の古い口語表現。「少し泣いても状況は変わらない」というニヒリズム。Kid Hoodの死と重なり予言的な重みを持つ

Kid Hoodの悲劇と制作の裏側

制作秘話 01

録音から数日後——Kid Hoodの死

Kid Hoodはマンハッタン/クイーンズを拠点とした無名の若きラッパー。El-PやStretch & Bobbitoといったアンダーグラウンドの重要人物たちとも繋がりを持っていた。このリミックス・セッションに偶然居合わせ、ATCQやL.O.N.S.のメンバーたちに全く引けを取らない凄まじいヴァースを披露した。

しかし録音からわずか2〜3日後、何者かとのトラブルにより胸を撃たれ命を落とした。その報を受けたBusta Rhymesは急遽スタジオに戻り、イントロに「Six which are in physical form, and one which is in spiritual essence」という言葉を吹き込んだ。この機転により、「Scenario (Remix)」は才能ある若き命への永遠の追悼碑となった。

制作秘話 02

より凶悪なビート——オリジナルとの差異

リミックスのビートはオリジナルの「Scenario」より「より凶悪でロウ(生々しい)なドラムブレイク」に差し替えられている。参加メンバー全員が全く新しいヴァースを書き直しており、単なるインストゥルメンタル差し替えではない。Q-TipとAli Shaheed Muhammadがプロデュースし、黄金期NYサウンドを確立した伝説のエンジニアBob Powerがミックスを担当。

制作秘話 03

カルト的支持——12インチB面の隠れた名盤

「Scenario (Remix)」は12インチシングルのB面、カセット・シングル、そして1998年の限定盤『The Love Movement』に収録されたのみ。アルバム本編には収録されていないにもかかわらず、ハードコアなヒップホップ・ヘッズとDJたちの間で「オリジナル版を超える」という評価を獲得。アンダーグラウンドでの口コミと12インチ発掘文化が生んだカルト的支持は今も続いている。

評価とその後の影響

Busta Rhymesのブレイクスルー

19歳の狂気が開いた扉

オリジナル版「Scenario」でのBusta Rhymesの「Dungeon Dragon」ヴァースは彼のキャリアを決定づけたが、このリミックスでも同等の狂気的エネルギーを維持。「dragon babies(自分のフォロワーたち)」への言及はすでに影響力を自覚していた証拠——後にFlipmode Squadを立ち上げ独立したBustaの原点がここに凝縮されている。

  • Rip Slyme L.O.N.S.の多人数での掛け合いやコミカルかつエネルギッシュなスタイルが直接的影響を与えたことを公言。日本のヒップホップへのATCQの具体的な遺産。
  • DJ Muro 日本を代表するディガーDJがフロアで多用。「オリジナルを超えるアンセム」として渋谷のクラブシーンで伝説化した。
  • ポッセカット文化 複数のMCが一曲でマイクをリレーする形式の頂点として、後の「All Falls Down」「Takeover」系のフィーチャリング文化に影響を与えた。

まとめ

  • 7人のMCが集う伝説的ポッセカットのリミックス。うち1人Kid Hoodは録音直後に銃弾に倒れ、この楽曲が「最初で最後の公式音源」となった。
  • Busta Rhymesが急遽吹き込んだ「Six in physical form, one in spiritual essence」の追悼の辞がヒップホップ史に刻まれる美しく痛ましい冒頭を形成。
  • Kid Hoodの「Two tears in a bucket, fuck it!」——ニヒリズムと生の叫びが交差するヴァースは、録音者の死と重なり予言的な重みを帯びて響く。
  • 日本ではDJ Muroらディガーたちによって「オリジナルを超えるフロア・アンセム」として渋谷のクラブシーンで伝説化。Rip Slymeへの影響も公言されている。

関連記事(内部リンク)

Producer: A Tribe Called Quest · Mix: Bob Power · Single B-side: 1992 · Also on: The Love Movement (limited, 1998)

アーティストについて

A Tribe Called Quest

Queens, New York · 1985–2016

Q-Tip、Phife Dawg(2016年死去)、Ali Shaheed Muhammad、Jarobi Whiteによるクルー。ジャズとヒップホップを融合したレイドバックなサウンドでジャンルの地平を拡げた。

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