Scenario 和訳・意味・スラング解説 | A Tribe Called Quest

アーティスト
A Tribe Called Quest feat. Leaders of the New School
プロデューサー
Q-Tip
収録アルバム
The Low End Theory
エリア
NY
BPM
97

この記事の見どころ

  1. 01 PopMatters「ヒップホップ史上最も偉大なポッセカット」・Time誌All-TIME 100 Songs選出
  2. 02 19歳Busta Rhymesが「Dungeon Dragon」ヴァースで世界に降臨したブレイクスルーの瞬間
  3. 03 N.W.A.のギャングスタ全盛期に暴力を一切使わずライムスキルだけで頂点に達したNative Tonguesの証明

Hook · Q-Tip

Here we go, yo, here we go, yo
So what, so what, so what's the scenario?
Here we go, yo, here we go, yo
So what, so what, so what's the scenario?

いくぞ、ヨー、いくぞ、ヨー
で、どうなんだ、結局どういうシナリオ(状況)なんだ?
いくぞ、ヨー、いくぞ、ヨー
で、どうなんだ、結局どういうシナリオ(状況)なんだ?

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シンプルながらフロアの熱狂を瞬時に着火させる強烈なフック。「Scenario(シナリオ)」は「今からどんな筋書きが展開するのか?」とクラウドに問いかけることで、これから始まるマイク・リレーへの期待感を極限まで高める仕掛け。パーティーの始まりを告げる合図であり、5人のMCによる応酬がどう転ぶか——その「シナリオ」は誰にも予測できない。

Verse 1 · Phife Dawg

A-yo, 1989年のNike広告キャンペーン。MLB・NFL両方で活躍したBo Jacksonの万能性を指す90年代初頭の象徴的フレーズ this and Bo knows that
But Bo 「何一つ分かっていない、無知だ」。Jack shit(全くの無)から派生したアメリカ口語。Bo Jacksonでもラップのことは全く分からないというユーモア , 'cause Bo can't rap

エイヨー、ボー・ジャクソンはこれを知ってる、あれも知ってる
でもボーはラップのことは何一つ分かっちゃいない、アイツはラップできないからな

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Phife Dawgの第一声。Bo JacksonはMLBとNFLの両方でスター選手として活躍した唯一無二のアスリートで、Nikeの「Bo Knows」キャンペーンで当時絶大な知名度を誇っていた。「何でもできるが、ラップだけはできない」——スポーツ・スラングを使った俺たちのフィールドへの宣戦布告。

Well, what do you know? The Diggy-Dawg is first up to bat
No batteries included, and no strings attached

さて、お前ら分かってるか? ディギー・ダウグ(Phife)が最初のバッターだ
電池は別売り(自分の力だけで動く)、そして何のしがらみ(条件)もないぜ

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「No batteries included」はおもちゃのパッケージ文言のもじり。「俺は作り物じゃなく本物」「仕掛けや演出なしの生の実力だ」という意味。"no strings attached"は慣用句で「条件なし、制約なし」。ラッパーとしての独立性と自信を宣言。

No holds barred, no time for フェイクな動き、ポーズを取ること。実力のないMCが虚勢を張る行為を指す
Gots to get the loot so I can 「家族を養う、大きな富を稼ぐ」。12世紀英国の伝統や1920年代のボクシング興行に由来とされる慣用句

反則なしの全力勝負、フェイクな動きをしてる暇はねえ
金(loot)を稼がなくちゃな、家族に飯を食わせるために

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「No holds barred」はレスリング用語で「一切の反則なし、全力戦」の意味。ここでは「手加減なしのラップ勝負」を指す。「bring home the bacon(ベーコンを持ち帰る)」は音楽業界での商業的成功を家族への責任と結びつけた表現。

Brothers front, they say the Tribe can't flow
But we've been known to do the impossible like ニューヨーク・ジェッツのQB、Joe Namathの愛称。1969年第3回スーパーボウルで大番狂わせの「勝利宣言」を的中させた伝説。NY特有のスポーツ・リファレンス , so

ブラザーたちは虚勢を張って、トライブにはフロウがないなんて抜かす
だが俺たちは不可能を可能にすることで知られてる、ブロードウェイ・ジョーのようにな

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「brothers front」の「front」はAAVEで「虚勢を張る、ポーズを取る」こと。Joe Namathは1969年のスーパーボウル前に「俺たちが勝つ」と公言——大方の予想を覆して本当に勝利した伝説のQB。「不可能を可能にする」ATCQの自信を、地元NYの英雄に重ねた。

Sleep if you want, アメリカで普及している市販の睡眠導入剤のブランド名 will help you get your 漫画の「Zzz」から「睡眠」を意味するスラング , troop
But here's the real scoop

寝たけりゃ寝ろよ、Nytol(睡眠薬)がお前の眠りを助けてくれるぜ、兵士くん
でもここからが本当のスクープ(特ダネ)だ

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「sleep」はAAVEで「甘く見る、無視する」の意味でも使われる。「寝たければ寝ろ(俺のことを甘く見ろよ)」という皮肉。"troop"は仲間・兵士への呼びかけ。「real scoop(本当のスクープ)」でこれからの本音を予告する。

★ Phife Dawgの自己紹介

I'm all that and then some; short, dark, and handsome
元々は男性の射精を意味する下品なスラングだが、ここでは「強烈な一撃を見舞う、実力を叩き込む」という暴力的比喩として転用 inside your eye to show you where I come from

俺は完璧以上——背が低くて、肌が黒くて、ハンサムだ
お前の目に一発ぶち込んでやる、俺がどこから来た男か(どれだけヤバいか)を分からせるために

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Phife Dawgは身長5フィート3インチ(約160cm)の小柄な体型をネタにしながら、「short, dark, and handsome」で当時流行していた「tall, dark, and handsome(理想の男性像)」の表現を逆手に取る自虐ユーモア。自分の見た目のコンプレックスを笑いに変えながらも圧倒的な自信を見せる秀逸なフロウ。

I'm vexed, fumin', I've had it up to here
My days of payin' dues are over, acknowledge me as in there

俺は苛立ち、怒り狂い、もう我慢の限界だ
下積みの時代は終わった、俺が頂点にいると認めな

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「vexed」はイライラした・激怒した状態を指すAAVE。「payin' dues(下積みを積む)」は音楽業界でコツコツと実績を積み上げる苦労の期間を指す。ATCQとしての地位を確立し、もはや証明する必要はないという宣言。

Head for the border, go get a taco
Watch me wreck it from the 「物事の最初から、初っ端から」を意味するAAVEスラング , meanin' from the 「最初から」を意味するスラング。jump streetと同義で使われている
Sit back relax and let the A Tribe Called Questのこと。地球上の全人類を「部族」として包括するアフロセントリックなコンセプト flow, yo, sit back relax and let the Tribe flow

国境に向かえ、タコスでも食ってな(ここは俺らのシマだ)
俺が最初っからぶち壊すのを見てな、つまり初っ端からってことだ
座ってリラックスしてトライブのフロウに身を委ねろ、ヨォ

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「Head for the border」はTaco Bellの当時のCMキャッチフレーズ「Yo quiero Taco Bell(タコベルが食べたい)」のもじり。「お前らはタコスでも食ってろ、ここは俺らの場所だ」という追い払いのユーモア。「jump street / get-go」は両方とも「最初から」の同義語で、韻を踏みながら念押しする。

Hook · Q-Tip

Here we go, yo, here we go, yo
So what, so what, so what's the scenario?
Here we go, yo, here we go, yo
So what, so what, so what's the scenario?

いくぞ、ヨー、いくぞ、ヨー
で、どうなんだ、結局どういうシナリオなんだ?
いくぞ、ヨー、いくぞ、ヨー
で、どうなんだ、結局どういうシナリオなんだ?

Verse 2 · Charlie Brown (LONS)

Yo, I came up in the era when 1989年から放送された『The Arsenio Hall Show』のこと。当時の黒人エンターテイナーやヒップホップ・アーティストにとって最重要な登竜門 was large
Them big ハンナ・バーベラ・プロダクションの1970年代のアニメ『The Great Grape Ape Show』の巨大な紫色の類人猿キャラクターからの引用。巨大で強力なものの比喩 were all in charge

ヨォ、俺はアルセニオ(・ホールのショー)がでっかかった時代に出てきた
あのでかいグレイプ・エイプ(巨人たち)が全部を仕切ってた

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「Arsenio was large」——当時最大の黒人エンターテインメント番組『The Arsenio Hall Show』が全盛期だったことを示す時代背景の提示。「Grape Apes(グレープ・エイプ)」は1975年のアニメの巨大な紫色の類人猿で、業界を支配する大物(レコード会社やメインストリームのアーティスト)のメタファー。

I used to watch 'em on TV and wonder what they sayin'
Now I'm at the point and I'm the one who's swayin'
My body rocks when the music is bumpin'
My mind's clear and I'm in tune with somethin'

昔はテレビでそいつらを見て、何を言ってるのか不思議に思ってた
今は俺がその立場で、揺らしてやる番だ
音楽が鳴り響けば俺の体はロックする
頭が澄み渡って、何かと同調してる

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テレビで憧れていた存在を今や自分が体現している——下積みから到達した現在地の感慨。「swayin'(揺らす)」はクラウドを踊らせる、場を支配するという意味。「in tune with somethin'」はジャズの即興演奏的な「何か大きな流れに乗っている」感覚を表す。

Hit the whole nation, from NY to ノースカロライナ州を指すAAVE特有のリズミカルなスラング。NY、コンプトンと並べて全米制覇を誇示
And out to Compton, no doubt we're gonna rock ya

国中をヒットした、NYからノース・カカラカ(ノースカロライナ)まで
コンプトンまで——間違いなく俺たちはお前らをロックする

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「North Cak-a-laka」はノースカロライナ州の愛称的スラング。NYの東海岸から南部のノースカロライナ、西海岸のコンプトン(L.A.)まで全米を制覇するという宣言。ギャングスタ・ラップの聖地コンプトンをあえて名指しし、ジャンルを超えた影響力を誇示する。

Verse 3 · Dinco D (LONS)

I look at life from a positive standpoint
Let me paint you a picture 'cause you seem joint
The clouds are parting, I see a rainbow
It's Leaders and Tribe on the same bill, yo

俺は人生をポジティブな観点から見てる
お前らのために一枚の絵を描いてやろう、お前らには見えてるようだから
雲が晴れて、虹が見える
リーダーズとトライブが同じステージに立ってる、ヨォ

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Dinco Dのヴァースは全体の中で最もポジティブで叙情的なトーン。「clouds are parting(雲が晴れる)」「rainbow(虹)」というメタファーで、LONSとATCQの共演というヒップホップ史上の特別な瞬間を祝福している。Native Tonguesのコレクティブ精神——競争ではなく共鳴——が凝縮されたライン。

I was a shorty who was once down and out
But now I'm back, and I know what I'm about
Yo, I roll with the punches, no time for the bull
Step up to Dinco and you'll get your skull full

俺はかつてどん底にいたガキだった
でも今は戻ってきて、自分が何者かを分かってる
ヨォ、俺はパンチをかわしながら進む、くだらないことに時間はない
Dincoに挑んでみな、頭の中がいっぱいになるぞ(やられるぞ)

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「roll with the punches」はボクシングの用語で「パンチに合わせて体を動かす(逆境をうまくかわす)」の慣用句。「skull full(頭がいっぱい)」はラップのバースをぶちまけられて頭がパンクするという意味——ヒップホップ特有の「マイクの暴力」表現。

Verse 4 · Q-Tip

Yo, microphone check one two, what is this?
The five footassassin with the roughneck business
I float like gravity, never had a cavity
Got more rhymes than the Cavs got Budweiser at the Cavalier

ヨォ、マイクチェックワンツー、これは何だ?
五フィートのアサシン(刺客)がラフネック・ビジネスを持ってきた
俺は重力のように漂う、虫歯は一本もない(完璧だ)
キャバリアーズのスタジアムでバドワイザーが売れるより多くのライムがある

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Q-Tipのヴァースはジャズ的な軽やかさと遊び心が凝縮されている。「float like gravity」はGravityが引き付けるように自然に動くという矛盾した比喩——Phife Dawgと同じく身長が低いことへの自虐と誇りが混在。「the Cavs got Budweiser」はNBAのクリーブランド・キャバリアーズのホームゲームでの販売数を比喩に使った数量表現の誇張。

I'm just a fly MC, the original on the case
And I'ma let the music take me to another place
So sit back relax and let the Tribe flow
Kick off your shoes and let your feet show

俺はただのフライ(イケてる)なMC、この件のオリジナルだ
そして音楽が俺を別の場所へ連れて行くままにする
だから座ってリラックスしてトライブのフロウに身を委ねな
靴を脱いで足を見せろ(完全にリラックスしろ)

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「fly MC」は「カッコいい、センスのいいMC」。「let the music take me」はジャズやソウルの即興演奏に身を委ねるアプローチ——コントロールしようとせず音楽の流れに乗る、ATCQの美学そのもの。「kick off your shoes」は完全にリラックスしてダンスフロアに溶け込む状態への誘い。

Verse 5 · Busta Rhymes (LONS) ★ ブレイクスルー

★ 歴史を変えた19歳のヴァース

ROAAAWR!
When I go to battle I never flee
That's 'cause I got the gift of the gab and I was born to MC
Busta Rhymes and Leaders of the New School, wreckin' it proper
You better keep your eyes open 'cause we do not stop, uh

ROAAAWR!(咆哮)
バトルになれば俺は絶対に逃げない
なぜなら俺には話術の才能があり、MCとして生まれてきたからだ
バスタ・ライムスとリーダーズ・オブ・ザ・ニュー・スクール、完璧にぶち壊す
目を開けたほうがいいぞ、俺たちは止まらないからな

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当時19歳のBusta Rhymesのヴァースは、ヒップホップ史上最も衝撃的なデビューの一つ。冒頭の動物的な咆哮「ROAAAWR」から始まるエネルギーは、ATCQのジャズ的な落ち着きとは完全に異質なものだった。「gift of the gab(話術の才能)」は言語能力への強い自信の表明。

★ Dungeon Dragon — ヒップホップ史のミーム誕生

I got a question, a question, are you ready for the scenario?
Yo, it's the coming of the Busta Rhymesを象徴する代名詞的フレーズ。後にEminemやNicki Minajなどにサンプリング・引用され、ヒップホップ史のミームとなった
Rawr rawr, like a dungeon dragon
Change your little drawers because your pants are saggin'

俺に質問がある、質問がある、お前はシナリオの準備ができてるか?
ヨォ、ダンジョン・ドラゴン(地下牢の龍)がやってくる
ガオォォ、ガオォォ、ダンジョン・ドラゴンのように
下着を変えたほうがいいぞ、お前のズボンが垂れ下がってるからな(漏らしてるぞ)

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「Dungeon Dragon」はBusta Rhymesのキャリアを象徴する最も有名なフレーズとなった。手に負えない凶暴で強大な存在——ダンジョンの奥底で生まれた龍——のイメージ。「change your little drawers(下着を替えろ)」は恐怖で失禁するほど圧倒されるという表現で、Bustaのエネルギーが他のMCを完全に圧倒することを示す。このフレーズはEminnem「Without Me」など数多の楽曲で引用された。

Rrrrrrrahh, let me show you what it's all about
On Tribe, make sure you don't shout when I'm spittin' out
Cause when I get to spit these words, they'll make you frown
It's Busta Rhymes rippin' it down and putting it down

ラァァァ、全てがどういうことか俺が見せてやる
トライブの上で、俺がスピットしてる時は叫ぶなよ
俺がこれらの言葉を吐き出す時、お前らは眉をしかめるだろうから
バスタ・ライムスがぶち壊して、叩き込む

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「ripping it down(ぶち壊す)」「putting it down(叩き込む)」はどちらもフロウのクオリティが圧倒的であることを表すヒップホップ表現。楽曲全体を通じて最も爆発的なエネルギーを持つこのヴァースで、Busta Rhymesはその後のキャリアの基盤を一気に確立した。

Outro · Hook

Here we go, yo, here we go, yo
So what, so what, so what's the scenario?
(Repeat / fading out...)

いくぞ、ヨー、いくぞ、ヨー
で、どうなんだ、結局どういうシナリオなんだ?
(繰り返し / フェードアウト...)

文化的背景

Native Tonguesムーブメント

知性とポジティビティで西海岸に対抗したNYの知的ギャング

1980年代後半から1990年代にかけて、ATCQ・De La Soul・Jungle Brothers・Black Sheep・Leaders of the New Schoolらが形成した緩やかなコレクティブ「Native Tongues」。西海岸のギャングスタ・ラップが描く暴力・犯罪・ミソジニーに対抗し、アフロセントリズム・ジャズ・ファンク・詩的言語遊戯を武器としたムーブメント。「Scenario」はそのポッセ・カット形式の頂点であり、Native Tonguesの「競争ではなく共鳴」の精神を体現する。

ポッセ・カット(Posse Cut)とは

MCがマイクをリレーする形式の芸術

複数のMCが順番にヴァースを担当するフォーマット。1980年代のDJパーティーで生まれ、NN: 「Scenario」では5人のMCがそれぞれ全く異なるスタイルとエネルギーでリレー——Phife Dawgのユーモア、Charlie Brownのグルーヴ、Dinco Dの叙情性、Q-Tipの知性、そしてBusta Rhymesの爆発力——が一曲に凝縮されることで、単独アーティストでは到達できない多層的なダイナミズムを生み出した。

キーワード解説

楽曲を読み解く重要スラング・用語

Scenario 筋書き・状況・シナリオ。「これからどんな展開になるのか?」という問いかけであり、5人のMCが繰り広げるマイクリレーの「筋書き」そのものを指す
Bo knows 1989年Nike広告キャンペーン「Bo Knows」。MLB・NFL両刀使いのBo Jacksonの万能性を称えた文化的フレーズ
Dungeon Dragon Busta Rhymesを象徴する代名詞。手に負えない凶暴で強大な存在のメタファー。後のEminem「Without Me」等で引用されヒップホップ史のミームに
LONS Leaders of the New School。BrooklynのグループでBusta Rhymes、Charlie Brown、Dinco D、DJ Cut Monitorで構成。「Scenario」への参加が全メンバーのキャリアを大きく押し上げた
Arsenio 『The Arsenio Hall Show』(1989-1994)。当時の黒人エンターテイナーの最重要メディア露出機会。ATCQもLONSと共演でこの番組に出演しブレイクした

制作の裏側

制作秘話 01

Posdnuosが全MCを震え上がらせた幻のヴァース

初期のレコーディング・セッションには現在のメンバー以外にも、Black SheepのDres&Mr. Long、De La SoulのMase&Posdnuos、Chris Lightyらが参加していた。当時のビートにはWilson Pickettの声ネタを含む合計15個ものサンプルが詰め込まれていた。

De La SoulのPosdnuosがブースに入った際、彼はビートの全サンプルをミュートしドラムのみをバックに凄まじいヴァースを蹴った。DJ Johnny Juiceの証言によれば、そのクオリティに他の全MCがショックを受け、リリックを急遽書き直す事態になったという。最終的にPosdnuosのヴァースはカットされ、LONSを中心とした現在の形に削ぎ落とされた。

制作秘話 02

SP-1200とAkai S950——ブーム・バップを定義した機材

Q-Tipはインタビューで「ドラムにはSP-1200、ループにはAkai S950を使っていた。SP-1200のブリキを叩くようなスナップ感のある大きなドラムの音が好きだった」と語っている。12ビット・サンプラー特有のザラついた質感が「Scenario」の爆発的なビートを支えており、この手法は後の「ブーム・バップ」サウンドのスタンダードとなった。

制作秘話 03

MVに集結したNYヒップホップの重鎮たち

Jim Swaffieldが監督を務めたミュージックビデオは、当時最先端のインタラクティブなデスクトップUI風の視覚効果を採用。Spike Lee、De La Soul、Kid Capri、Brand Nubian、Fab Five Freddy、Redmanらがカメオ出演し、当時のNYヒップホップ・コミュニティの連帯——Native Tonguesの精神——を視覚的に証明する歴史的ドキュメントとなっている。

評価とその後の影響

指標
記録
意義
TIME誌
All-TIME 100 Songs選出 (2017年)
ジャンルを超えた普遍的評価。音楽史的な重要性を認定
PopMatters
ヒップホップ史上最も偉大なポッセ・カット
批評家Matt Cibulaによる評価。現在まで揺らいでいない
Busta Rhymesへの影響
本楽曲がキャリアのブレイクスルーに
このヴァース後にソロ契約。Grammy9回ノミネートの原点
Arsenio Hall Show
放送後に全米区で一気に知名度上昇
最重要メディアへの露出がアンダーグラウンドからメインストリームへの架け橋に
Conrad Tokyo (2016年)
ATCQ最後のアルバム収録曲名に日本が登場
日本ツアーでの滞在が晩年の創作に影響を与えた証

日本との繋がり

Conrad Tokyo——ATCQが東京に残したラブレター

ATCQは1990年代を通じて日本でも精力的にライブ活動を展開。彼らの代表作『The Low End Theory』の日本盤CDにはUSオリジナルにはないボーナストラックが追加収録された。2016年の事実上のラスト・アルバム『We Got It from Here... Thank You 4 Your Service』に収録された「Conrad Tokyo」(feat. Kendrick Lamar)は、過去の日本ツアー時に滞在したホテル「コンラッド東京」の記憶から命名された。東京は、現代アメリカの政治的混乱(トランプ政権下)と対比するための重要なメタファーとして機能している。

  • 裏原宿 ATCQのジャズ・ヒップホップとNative Tonguesの美学は90年代初頭の裏原宿カルチャーとストリートファッションの精神的バイブルとして受容された。
  • 日本のDJシーン 「Scenario」の爆発的なビートは都内のヒップホップ・イベントのピークタイムの定番として現在も使われ続けている。

まとめ

  • Phife Dawg・Charlie Brown・Dinco D・Q-Tip・Busta Rhymesの5人が全く異なるスタイルでマイクをリレーする「ヒップホップ史上最高のポッセ・カット」(PopMatters)。
  • 19歳のBusta Rhymesが「Dungeon Dragon」フレーズでキャリア最大のブレイクスルーを果たし、後のEminem等に引用されヒップホップ史のミームとなった。
  • 初期セッションではDe La SoulのPosdnuosが圧倒的なヴァースで他全MCを震え上がらせた——その伝説のヴァースは最終版に収録されなかった。
  • Time誌「All-TIME 100 Songs」選出。Native Tonguesムーブメントの「暴力ではなくスキルで勝負する」精神の結晶。

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Producer: A Tribe Called Quest · Album: The Low End Theory (1991) · Single: 1992 · feat. Leaders of the New School

アーティストについて

A Tribe Called Quest

Queens, New York · 1985–2016

Q-Tip、Phife Dawg(2016年死去)、Ali Shaheed Muhammad、Jarobi Whiteによるクルー。ジャズとヒップホップを融合したレイドバックなサウンドでジャンルの地平を拡げた。

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