ストーリーの流れ — まず曲全体をつかむ
個々のスラングに入る前に、まず曲が何を語っているかをざっくりとつかんでおきましょう。物語の文脈が頭に入っていると、次章「学ぶ表現」でひとつひとつの言葉を掘るときに、その言葉が曲のどこに位置するのかが立体的に見えてくる。
曲は架空のマフィオソ計画から始まる。Big PunがFat Joe(「Joey」)に作戦を伝える。ブロンクスのリトル・イタリー地区で標的を始末し、汚職警官と手を組んで逃げおおせる。映画『ゴッドファーザー』の登場人物「ヴィトー」や、ロバート・デ・ニーロ演じる「ヌードルス」が実際の計画の場所として出てくる。マフィア映画の固有名詞がそのままブロンクスの路地に溶け込んでいるわけで、これがマフィオソ・ラップという様式の核心だ。
Verse 1(Big Pun)。スタジオの口慣らしから生まれた「Little Italy」ラインが炸裂する。ターゲットがパスタをすすっている隙に急襲するが、実は無関係な仲介人を仕留めてしまっていたというオチ。31音節に7つの同音が連打されるこの一行は、ラップの技術論として今も世界中で引用される。
Hook(Big Pun & Fat Joe)。「1-8-7 on an undercover cop」。カリフォルニア州刑法第187条(殺人罪)のコードを借りたDr. Dre / Snoop Doggのオリジナルフックをそのまま継承しつつ、「still(今でも)」という一語を足す。これが東海岸の宣言になっている。
Verse 2〜7では、Big PunとFat Joeが交互にバースを担当しながら反警察・反骨精神・ラテン系のアイデンティティを次々に畳みかける。「Black Pearl Latina, más fina」でBig Punはスペイン語を行き来し、Fat Joeは「Don Cartagena(ドン・カルタヘナ)」というマフィアのドンのオルターエゴで自らを位置づける。最後は「Terror Squad(テラー・スクワッド)」というクルー名で締め、ブロンクスのラテン系集団としてのアイデンティティを宣言して曲を閉じる。
※本ページは批評・教育目的で、解説に必要な範囲の断片のみを引用しています。全歌詞の対訳は掲載していません。