ストーリーの流れ — まず曲全体をつかむ
投獄された Scarface、Raekwon がこのタイトルに何を込めたのか、まず曲全体の流れでつかんでおきましょう。全体像があると、各ユニットで一語一語を掘るときに立体的に見えてくる。
曲は映画のスキット風な会話から始まる。「彼は冷静で、殺し屋には見えない。夢を持っているような眼だ」。香港ノワール映画からのサンプリングで、これから語られる「投獄されたスカーフェイス」の人物像を先に提示する導入です。
Chorus。「time is runnin' out(時間が尽きる)、let's connect, politic, ditto(繋がり、語り合おう、そうだろ)」。反復するフックは焦燥と連帯の両方を帯びている。そして「incarcerated scarfaces(投獄されたスカーフェイスたち)」というパンチラインが落ちる。
Verse 1(Raekwon)。ストリートのスタイルが何百万もの人間を惹きつけると宣言し、Wu-Tangのパワーと Five-Percent Nation の思想語彙(scholars / Power)を散りばめながら、自分を「black Trump」に喩える富の宣言へと展開していく。暴力の匂いも消えない中、コネチカットへの言及でバースが閉じる。
Verse 2(Raekwon)。「Chef」(Raekwonの別名)のリリックが輝くと宣言したあと、ストリートのリアルが畳みかけられる。モエのシャンパンが「嘔吐みたいな味」という逆説的なステータス批判、Timberland(Timbs)とMAC-10(銃)でアジトに乗り込む場面、「battle for cash and see who sons who」という挑発、Wallabees(ウォラビーズ)へのこだわり……。そして「pardon the French, let me speak Italian / Black stallions wildling on Shaolin」でバースが締まる。イタリア語=ギャング語、Shaolin=スタテンアイランドという符丁が重なる、このアルバムらしさがぎゅっと詰まった一節です。
Verse 3(Raekwon)。「barber shop n***as(理髪店でたむろする普通の男たち)のためにラップする」という宣言から始まる。壊れたエレベーター、黄色いタクシーに乗せてもらえない場面(社会的摩擦のブラックユーモア)、「cooling like Kahlúas on rocks(カルーアロックのように冷静に)」。ストリートの日常が次々と出てくる。「I seen it / Like a 27-inch Zenith, believe it」でバースが閉じる。
※本ページは批評・教育目的で、解説に必要な範囲の断片のみを引用しています。全歌詞の対訳は掲載していません。