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Protect Ya Neck — Wu-Tang Clan 和訳・スラング解説

アーティスト
Wu-Tang Clan
リリース年
1993
プロデューサー
RZA
収録アルバム
Enter the Wu-Tang (36 Chambers)
エリア
NY
BPM
96
サンプル元
The J.B.'s "The Grunt" (1970)

この記事の見どころ

  1. 01 Protect Ya Neckはフックなし・8MCが斬り合うWu-Tangのデビュー名刺
  2. 02 スラング・韻・言葉遊び・AAVEを「学ぶ表現」単位で8MC分解説(PV頭出しリンク付き)
  3. 03 RZAがThe J.B.s「The Grunt」の絶叫サックスを刻んだ、インディー独立宣言の一曲

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元ネタ

解説

■この曲で何を学べるか

Wu-Tang Clanのデビュー・シングルであり、伝説のデビュー作『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』(1993年)にも収録された一曲。フック(サビ)らしいサビはほぼ無く、8人のMCがひたすらマイクを奪い合うように斬り込んでいく、posse cut(大人数曲)の極北みたいな構成です。プロデュースはRZA。当時まだ加入していなかったMasta Killaを除く8人(Inspectah Deck、Raekwon、Method Man、U-God、Ol' Dirty Bastard、Ghostface Killah、RZA、GZA)が登場します。この記事は英語学習とヒップホップ理解の教材として読んでもらえればと思います。8人それぞれ訛りも語彙も違うので、一曲で多様なスラングとAAVE、言葉遊びをまとめて浴びられるのが最大の魅力。タイトルの慣用句から、mad(=very)のNY強調、who I are のAAVE、Shaolin・Brooklyn Zoo・A&Rといった固有名詞まで、「学ぶ表現」単位で解説していきます。

■なぜProtect Ya Neckが教材として優れるか

理由は、8人ぶんの「個性の違う英語」が一曲に詰まっているから。同じWu-Tangでも、Inspectah Deckの比喩の畳み方、Raekwonの硬派な韻、Method Manの軽妙なフロウ、Ghostfaceの語順を崩すAAVE、GZAの皮肉たっぷりの音楽業界批判。口調も語彙もまるで違います。一人を追うだけでは出会えない表現の幅を、4分強でまとめて体験できる。しかも歌詞はバトル英語(boast / battle rap)の見本市で、相手をどう言葉で叩きのめすかという比喩・誇張・固有名詞の引用が全編に詰まっている。「自分を何に喩えるか」だけでも、ボクサー(Frazier)、俳優(Schwarzenegger)、麻薬王(Escobar)と多彩で、比喩を読むことがそのまま文化を読むことになります。フックがない=ひたすら中身、というのも、リリック精読の教材としてはむしろ理想的です。

ストーリーの流れ — まず曲全体をつかむ

この曲に物語はありません。あるのは「誰がいちばん斬れるか」の腕試し。8人の登場順と持ち味をざっと押さえておくと、次章で一語ずつ掘るときに「これは誰のバースか」が立体的に見えてきます。

イントロ&Interlude(RZA & ODB)。ラジオに電話して「あのWu-Tangの曲をかけてくれ」とねだる小芝居から始まり、「Watch your step, kid(足元に気をつけろ)」の連呼でタイトルの世界に引きずり込む。

Verse 1〜3Inspectah Deck → Raekwon → Method Man。Deckが「Smokin' Joe Frazier」の駄洒落で口火を切り、Raekwonが硬派な韻で畳み、Methが軽快なフロウで受ける。Bridge(U-God)は短め。彼は録音期に多くを刑務所で過ごしていたため、出番がこの短いパートだけになった、という背景があります。

Verse 4〜7Ol' Dirty Bastard → Ghostface Killah → RZA → GZA。ODBが「Brooklyn Zoo」の異名で暴れ、Ghostfaceが「Pablo Escobar」を引いて凄み、RZAが宗教とユーモアを混ぜ、最後にGZAが音楽業界そのものを皮肉で斬り倒して締める。フックを挟まず8人が一気に駆け抜ける構成は、初めて聴くと圧倒されます。

※本ページは批評・教育目的で、解説に必要な範囲の断片のみを引用しています。全歌詞の対訳は掲載していません。

学ぶ表現 — スラング・韻・言葉遊び・AAVE

各見出しは「この曲から学べる英語表現」。各ユニットはまず上に英語の用例(1〜2行)を置いてあります。先に英語を音で追い、行のどこが学習対象かを確かめてから下の日本語解説に進むと、英語が苦手でも置いていかれません。

Watch your step / protect ya neck — 警戒を促す慣用句

★ 慣用句/フック
RZA & Ol' Dirty Bastard(Interlude) ≈0:28

Watch your step, kid (Protect your neck, kid)
You best protect your neck (Watch your step, kid)

足元に気をつけろ、坊主(首を守れ、坊主)/首を守ったほうがいい(足元に気をつけろ、坊主)

▶ イントロ後のInterludeと、曲を締めるアウトロで繰り返されるタイトル句。

タイトルの protect ya neck(=protect your neck)が学習ポイント。文字どおりは「首を守れ」ですが、「油断するな・警戒しろ・隙を見せるな」という比喩の慣用句です。首は急所であり、そこを守れ=身を守れ、という発想。あわせて出てくる Watch your step(足元に気をつけろ)も「気を抜くな」という警告の定番フレーズ。You best protect your neckbestyou('d) best = you had better(〜したほうが身のためだ)の口語形で、強い忠告・脅しのニュアンスになります。フックの代わりにこの警告句を反復することで、曲全体が「斬り合いの場」だと宣言しているわけです。

語法 — どう使うか ▼

you best (do) ~you'd best = you had better の砕けた形。「〜したほうがいい(さもないと…)」という警告・脅しに使う。You best watch out(気をつけたほうがいいぞ)。standard の you should より強い。

watch your step / watch your back はどちらも「警戒しろ・油断するな」の慣用句。step は「足元(=行動)」、back/neck は「無防備な急所」を守れ、という発想。

I smoke on the mic like Smokin' Joe Frazier — 駄洒落つきの直喩

★ 言葉遊び/引用
Inspectah Deck(Verse 1) ≈0:37

I smoke on the mic' like "Smokin' Joe" Frazier
The hellraiser, raisin' Hell with the flavor

俺はマイクの上で"煙が出る"ほど熱い、スモーキン・ジョー・フレイジャーのように/地獄をかき回す者、フレイヴァーで地獄を巻き起こす

▶ Verse 1の冒頭、Inspectah Deckが曲の口火を切る一行目。

曲の一行目から仕掛けが効いています。I smoke on the mic like "Smokin' Joe" Frazier。伝説のボクサー Joe Frazier(通称 "Smokin' Joe")を引きつつ、smoke の二重の意味で遊んでいる。smoke は「煙が出るほど激しくやる/(スラングで)相手を圧倒する・叩きのめす」。つまり「マイクの上でスモーキン・ジョーのように相手をぶちのめす」を、ボクサーの異名そのものに掛けている。下の行の hellraiser / raisin' Hell も、raise hell(大暴れする)という慣用句と「hell-raiser(暴れ者)」を重ねた言葉遊び。冒頭の二行に駄洒落と引用と慣用句が全部入っている、Deckらしい立ち上がりです。

語法 — どう使うか ▼

smoke(動詞)はスラックで「(相手を)完全に打ち負かす・叩きのめす」。I smoked him(あいつを圧倒した)。本来の「煙・喫煙」の意と掛けて使われることが多い。

raise hell は「大騒ぎする・暴れる・問題を起こす」という慣用句。名詞化した hell-raiser(暴れ者・トラブルメーカー)とセットで覚えると、ここでの言葉遊びがよく分かる。

like troops in Pakistan / Spider-Man — 多音節の直喩チェーン

★ 韻/比喩
Inspectah Deck(Verse 1) ≈0:44

Terrorize the jam like troops in Pakistan
Swingin' through your town like your neighborhood Spider-Man

パキスタンの軍隊のようにジャム(現場)を制圧する/近所のスパイダーマンみたいに、お前の街をスイングして渡っていく

▶ Verse 1前半、Deckが直喩を連射する件。まず音で。

まず音だけ追ってください。行末の Pakistan / Spider-Man が、-istan / -ider-man多音節(multisyllabic)の韻で気持ちよくハマっている。これがDeckの真骨頂です。意味の面では、どちらも like を使った直喩のチェーン。like troops in Pakistan(パキスタンの軍隊のように)で制圧の激しさを、like your neighborhood Spider-Man(近所のスパイダーマンのように)で身軽さと縦横無尽さを表す。 その場・現場・パーティー/セッションを指すスラング は「現場・場(セッションやパーティー)」のスラング。固有名詞を2連発しながら多音節で韻を踏む、比喩と韻を同時に走らせる作りの見本です。

Rhymes rugged and built like Schwarzenegger — 固有名詞を使った直喩

★ 比喩/引用
Raekwon(Verse 2) ≈1:25

Call me the rap assassinator
Rhymes rugged and built like Schwarzenegger

俺をラップの暗殺者と呼べ/韻はゴツくて、シュワルツェネッガーみたいに筋骨隆々だ

▶ Verse 2前半、Raekwonが自分の韻の強度を誇る件。

注目は built like Schwarzenegger。俳優アーノルド・シュワルツェネッガーの筋骨隆々の肉体を引いて、自分の韻が「ゴツくて頑丈」だと喩えています。built like ~(〜のような体格・作り)は、体格や頑丈さを表す定番の言い回し。 ゴツい・武骨・荒削りでタフ。ハードコアなスタイルへの褒め言葉 (武骨でタフ)はWu-Tang美学のキーワードでもあります。さらに前の行 assassinatorSchwarzenegger-ator / -egger の韻も踏んでいる。固有名詞ひとつで「強さの質感」を伝える、そのやり方がよく効いた一節です。

語法 — どう使うか ▼

built like ~ は「〜のような体格・構造をしている」。built like a tank(戦車のようにごつい)、built like an athlete(アスリート体型)。人の体格にも物の頑丈さにも使える。

rugged は「武骨な・ごつい・荒々しくタフ」。ハードコア・ヒップホップでは最上級の褒め言葉のひとつで、洗練(smooth)の対極にある美学を指す。

check out the flow like the Hudson — flow の二重の意味

★ 言葉遊び
Method Man(Verse 3) ≈2:05

Yo, check out the flow
Like the Hudson

よお、このフロウを聴いてみろ/ハドソン川のように(流れる)

▶ Verse 3後半、Method Manが自分のフロウを喩える件。

短い2行ですが、flow の二重の意味で遊んでいます。ヒップホップで ラップのリズム・節回し・言葉の乗せ方。MCの技量を測る最重要概念 は「ラップのリズム・節回し」を指す最重要語。ところがここでは like the Hudson(ハドソン川のように)と続けることで、flow の本来の意味「(川の)流れ」に引き戻している。「俺のフロウ(ラップ)は、ニューヨークを流れるハドソン川みたいに滔々と流れる」。一語の二つの意味を、たった一つの川の名前で同時に成立させる。Method Manらしい軽妙な言葉遊びです。続く Or PCP when I'm dustin'dustin'(PCP="angel dust"をやること)のような物騒なスラングと、こうした洒落が同居するのも彼の持ち味。

語法 — どう使うか ▼

flow(名詞)はヒップホップで「ラップのリズム・節回し・言葉の乗せ方」。nice flow(いいフロウ)、switch up the flow(フロウを変える)。本来の「流れる」の意と掛けた言葉遊びに頻繁に使われる。

「自分の flow を川・水の流れに喩える」のはラップの定番レトリック。flow という語が元々「流れ」を意味するため、川・水のイメージと相性が良い。

Here comes my Shaolin style — Shaolin=スタテンアイランド

★ スラング(地名)/文化
U-God(Bridge) ≈2:18

Here comes my Shaolin style
To my crew with the, "Soo"

ほら、俺のシャオリン(少林)スタイルのお出ましだ/"Soo"のかけ声で応える俺のクルーへ

▶ U-Godの短いBridge。出番はここだけ(録音期は服役中だった)。

学習ポイントは Shaolin。これは中国の少林寺(カンフー映画の聖地)であると同時に、Wu-Tangが地元 Staten Island(スタテンアイランド)を指して使う独自の呼び名です。彼らはカンフー映画の世界観を地元に重ねて「Shaolin」と呼びました。Here comes my Shaolin style で「俺の地元仕込みのスタイルの登場だ」。冒頭の Here comes ~(〜のお出ましだ)は、登場を告げる提示の定番表現。なお、このBridgeがU-Godの唯一の出番なのは、録音期の多くを彼が刑務所で過ごしていたためで、短さ自体に背景があります。地名の言い換え一つに、クルーの神話とメンバーの事情まで宿っているわけです。

straight from the Brooklyn Zoo — 異名で出自を名乗る

★ スラング(地名)/文化
Ol' Dirty Bastard(Verse 4) ≈2:45

Shame on you when you step through to
The Ol' Dirty Bastard straight from the Brooklyn Zoo

恥をかくぞ、お前が踏み込んできたら/ブルックリン・ズー直送のオール・ダーティ・バスタードのもとへ

▶ Verse 4、Ol' Dirty Bastardが暴れ出す件。

学習ポイントは Brooklyn Zoo。これはODBが自分の出身地ブルックリンを「動物園(混沌として手がつけられない場所)」になぞらえた異名で、のちに彼のソロ代表曲のタイトルにもなります。straight from the Brooklyn Zoo(ブルックリン・ズー直送)で、自分の出自を一発で名乗るstraight from ~(〜から直で・〜出身の)は出身や産地を強調する定番表現(straight from the streets など)。上の行 Shame on you(恥を知れ・思い知るぞ)も日常で使える慣用句。地名を強烈な異名に変えて自己紹介にしてしまう、キャラクターの立て方がそのまま語彙になっている好例です。

語法 — どう使うか ▼

straight from ~ は「〜から直接・〜出身の・〜直送の」を強調する言い回し。straight from the source(出どころから直で)、straight outta Compton(コンプトン出身)のように、出自・産地の本物感を出す。

shame on you は「恥を知れ・よくもまあ」という決まり文句。相手を非難・牽制するときに使う。

who I are is livin' the life of Pablo Escobar — AAVEの語順と引用

★ AAVE文法/引用
Ghostface Killah(Verse 5) ≈3:25

And get far like a shootin' star
'Cause who I are is livin' the life of Pablo Escobar

流れ星のように遠くまで行く/なぜなら、今の俺はパブロ・エスコバルの人生を生きているから

▶ Verse 5の締め近く、Ghostfaceが凄む件。学習対象は下の行。

下の行に二つ仕込まれています。まず文法。who I are、標準英語なら who I am(一人称=am)ですが、ここでは are になっている。これはAAVEに見られるbe動詞の人称による使い分けの緩み(一人称でも are を使う)の一例で、さらに行末 Escobar / star / far-ar 韻に are の音まで巻き込む、韻のために語形を選ぶ狙いも見えます。意味の面では Pablo Escobar(伝説のコロンビアの麻薬王)を引いて、桁外れの羽振りを誇示している。文法の崩しが韻と一体になっている。AAVEと韻の関係を考えるのに格好の一行です。

語法 — どう使うか ▼

AAVEでは be動詞の人称対応が標準英語と異なることがあり、who I are(=who I am)、we was(=we were)のような形が現れる。崩れというより、韻や語感を優先して選ばれることも多い。

固有名詞での誇示(livin' the life of ~=「〜のような人生を送っている」)はラップの定番。Escobar / Scarface / Capone など、富と権力(と破滅)の象徴がよく引かれる。

Feelin' mad hostile / when I speaks — mad=very と AAVEの動詞-s

★ スラング/AAVE文法
RZA(Verse 6) ≈3:42

Feelin' mad hostile, wearin' Aéropostale
Flowin' like Christ when I speaks the gospel

めちゃくちゃ攻撃的な気分だ、エアロポステールを着て/福音を語るとき、俺はキリストのように流れる

▶ Verse 6、RZAが宗教の比喩を混ぜて凄む件。学習対象は二箇所。

二つの学習ポイントがあります。一つ目は mad hostile ニューヨーク特有の強調語で「とても・めちゃくちゃ」。mad cool=超イケてる、など 。これはニューヨーク特有の強調語で、very(とても・めちゃくちゃ)の意味。mad hostile=「超ピリピリしてる」、mad people=「すごい数の人」のように形容詞・名詞の前に置きます。二つ目は when I speaks。一人称なのに動詞に -s が付いている。これはAAVEに見られる動詞の-sの自由な付与(標準英語の三単現ルールに縛られない)で、ここでは gospel / Aéropostale / hostile の韻に speaks the gospel を合わせる狙いもある。ブランド名(Aéropostale)と聖書(gospel)を同じ韻でつなぐ発想込みで、RZAらしい一節です。

語法 — どう使うか ▼

mad(NYスラング)=「とても・すごく・めちゃくちゃ」。mad cool(超イケてる)、mad money(大金)、mad people(大勢)。形容詞・名詞の前に置く強調語で、ニューヨークの語感が強い。

AAVEでは標準英語の三単現の-sルールが当てはまらず、I speaks / he speak のように -s の有無が標準と逆転することがある。崩れというより別体系の規則。

too slammin' for these cold killer labels — 音楽業界を斬る

★ スラング/業界批評
GZA(Verse 7) ≈4:12

The Wu is too slammin' for these cold killer labels
Some ain't had hits since I seen Aunt Mabel

Wuはイカしすぎてて、この薄情なレコード会社どもには手に負えない/いくつかのレーベルは、俺がメイベルおばさんに会って以来ヒットが出てない

▶ Verse 7の冒頭、GZAの伝説的な音楽業界批判が始まる件。

GZAのバースは、丸ごと音楽業界(メジャーレーベル)への痛烈な皮肉として知られています。学習ポイントの record labels(レコード会社)。とくにメジャー資本のレーベル は「レコード会社」のこと。 最高にイカしている・素晴らしい、を意味するスラング (最高にイカしてる)なWuには、cold killer labels(冷酷で人を潰すレーベル)は手に負えない、と宣言する。次の行 Some ain't had hits since I seen Aunt Mabel は、ain't(AAVEの否定)と「メイベルおばさんに会って以来ヒットなし」という大げさな時間表現のユーモアで、落ち目のレーベルをからかっている。GZAは過去に大手で苦い経験をしており、この業界批判には実体験の重みがあります。

語法 — どう使うか ▼

ain't ... since ~(〜以来ずっと…ない)は、since の後ろに大げさ・滑稽な基準を置いて時間の長さを誇張する定番の言い回し。I ain't seen him since forever(ずっと前から会ってない)。

slammin'(=slamming)は「最高・イカしてる」のスラング。That's slammin'(それイケてる)。料理・音楽・服など幅広く使える褒め言葉。

who's your A&R? — 音楽業界の専門語が出てくる

★ 業界用語/言葉遊び
GZA(Verse 7) ≈4:30

First of all, who's your A&R?
A mountain climber who plays an electric guitar?

そもそも、お前んとこのA&Rは誰だ?/エレキギターを弾く登山家か?

▶ Verse 7中盤、GZAがレーベルの人選を笑う件。

学習ポイントは Artists and Repertoire。レーベルでアーティストの発掘・契約・作品の方向性を担う担当者 (エー・アンド・アール)。これは音楽業界の専門用語で Artists and Repertoire の略。レーベルでアーティストを発掘・契約し、作品の方向性を決める担当者を指します。GZAは who's your A&R? A mountain climber who plays an electric guitar?(お前のA&Rは誰だ? ギターを弾く登山家か?)と、ヒップホップを分かっていない的外れな人物がアーバン・ミュージックの責任者をやっている滑稽さを皮肉っている。A&R / guitar の韻もきれいに決まっている。業界の内側を知る語彙(A&R)が、そのまま批評の武器になっている。専門語を覚えると、リリックの射程がぐっと広がる好例です。

語法 — どう使うか ▼

A&R(Artists and Repertoire)=レコード会社で新人発掘・契約・楽曲やアルバムの方向性を統括する部門/担当者。get signed by an A&R(A&Rに見出されて契約する)のように使う、音楽業界の必須用語。

業界の専門語(A&R, label, signed, deal など)を押さえると、ヒップホップ特有の「音楽ビジネス批評」のリリックが一気に読めるようになる。

文化的背景

インディー独立宣言

自主制作の12インチが業界の常識を変えた

「Protect Ya Neck」は、Wu-Tangが自主制作で12インチ・シングルとしてプレスし、自分たちでラジオやレコード店に売り込んだことで火がついた一曲。フックも甘いメロディもない、8人が斬り合うだけの曲が口コミで広がり、結果メジャー(Loud/RCA)との契約を勝ち取った。

しかもRZAが勝ち取ったのは、グループ契約を結びつつ、各メンバーは別々のレーベルとソロ契約を結んでよいという前代未聞の条件。この「個々が自由に動ける」構造が、のちのソロ作の連打とWu帝国の拡大を可能にしました。

一曲のインディー・シングルが、ビジネスの常識ごと書き換えてしまった。GZAのバースが業界を皮肉るのは、こうした実体験の裏打ちがあるからです。

キーワード早見表

この曲で学んだ表現の整理

protect ya neck 「警戒しろ・隙を見せるな」の慣用句。首=急所を守れ
mad(NY) 「とても・めちゃくちゃ」の強調語。mad cool=超イケてる
Shaolin スタテンアイランドのWu-Tang流の呼称(少林寺になぞらえる)
Brooklyn Zoo ODBが出身地ブルックリンを動物園になぞらえた異名
who I are / when I speaks AAVEのbe動詞・動詞-sの標準と異なる用法(韻にも寄与)
flow ラップの節回し。本来の「流れ」と掛けた言葉遊びに頻出
labels / A&R レコード会社/アーティスト発掘・契約担当。業界批評の語彙

サンプル・制作の裏側

サンプル元

あの絶叫サックスの正体 — The J.B.'s "The Grunt"

イントロから耳をつんざく、あのけたたましいサックスの絶叫。その正体は、James Brownのバックバンド The J.B.'s の「The Grunt」(1970年)冒頭の、サックスのグリッサンド(音を滑らせる奏法)です。RZAはこの数秒の金切り声をループして、ビートの背骨に据えた。

耳に痛いほど鋭いこの音が、8人が斬り合う緊張感をさらに研ぎ澄ましている。ちなみに同じ「The Grunt」のサックスは、Public Enemyの「Rebel Without a Pause」でも使われた超定番のブレイク。RZAはそれを、原曲の荒々しさをむしろ強調する方向で料理しました。

わずか数秒の絶叫を、ここまで凶暴なビートの背骨に化けさせる。RZAの耳の鋭さがそのまま出た一手だと思う。

フックなしという構成

8人を順に浴びせる「斬り合い」の設計

この曲には、いわゆる歌うサビがありません。あるのは「Watch your step, kid」の警告と、8人のMCが次々に斬り込んでくるバースの連打だけ。これは「俺たちは曲の甘さで売らない、純粋に技量で勝負する」という宣言でもあります。

一人ひとり声質も訛りも語彙も違うので、聴き手は否応なく「今のは誰だ?」と耳をそばだてる。その緊張感が、フックで一息つく普通の曲とはまるで違う体験を作っている。

リリックを精読する教材として、これほど中身の詰まった構成もありません。

評価とその後の影響

指標
記録
意義
立ち位置
Wu-Tang Clanのデビュー・シングル
自主制作の12インチからメジャー契約を勝ち取った出発点
収録
『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』(1993)
ヒップホップ史上最重要のデビュー作の一つに収録
RIAA認定
Platinum(シングル)
フックなしのハードコアな曲が長く支持され続けた証
Pitchfork
90年代ベスト・トラック200 第5位(2010年)
批評筋からの極めて高い評価。The Source「100 Best Singles」にも

後世への影響

「9人」という発明と、その後のソロ拡大

「Protect Ya Neck」が証明したのは、大人数のMC集団が、一曲のなかで個性を競い合うことの破壊力でした。ここで顔を売った各メンバーは、その後 Method Man、Raekwon、GZA、Ghostface、ODB と次々にソロの名盤を放ち、Wu-Tangは「グループにして個人事業主の連合」という新しいモデルを確立していきます。

フックに頼らず純度の高いリリックだけで勝負したこの一曲は、以後のアンダーグラウンド/ハードコア・ヒップホップの一つの規範になりました。

英語学習の面でも、8人ぶんの語彙・訛り・言葉遊びをまとめて浴びられるという意味で、これ以上ない密度の教材だと思います。

まとめ

  • 「Protect Ya Neck」は、フックなしで8人のMCが斬り合うWu-Tangのデビュー・シングル。一曲で多様なスラング・AAVE・言葉遊びをまとめて学べる。
  • protect ya neck(警戒しろ)の慣用句、mad=very のNY強調、who I are/when I speaks のAAVE、Shaolin・Brooklyn Zoo の地名の言い換えなど、生きた表現が高密度。
  • flowの二重の意味、Frazier/Schwarzenegger/Escobar を使った直喩、A&R など業界語を武器にしたGZAの批評など、比喩とバトル英語のレパートリーが一通り押さえられる。
  • RZAがThe J.B.'s「The Grunt」の絶叫サックスを刻んだ音と、自主制作からメジャー契約を勝ち取ったインディー独立の物語が、この一曲に詰まっている。

もっと深く

背景を読む

制作の裏側・時代背景・評価の詳細は、各コラムで掘り下げている。

アーティストについて

Wu-Tang Clan

Staten Island, New York · 1992–

RZAをリーダーとするスタテンアイランド出身の9人組クルー。インディー精神と東洋哲学・カンフー映画を融合し、1990年代NYヒップホップを再定義した。

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